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Speake-Marin · Cabinet des Mystères · 2014

Face to Face

双頭の骸骨が向かい合う化学エッチング・ダイヤル。メメント・モリを掲げた2014年のCabinet des Mystères作

Face to Face PIC.60013は、スピーク・マリンが2014年に製作したCabinet des Mystèresコレクションの1本である。42mmのステンレススチール製ピカデリーケースに、化学エッチングで向かい合う2つの骸骨を描いた黒のダイヤルを収める。主題は創業者ピーター・スピーク・マリンが長年掲げてきたメメント・モリ(死を想え)。各個体で仕上げが異なり、限定作でありながら事実上の一点物として扱われる。ムーブメントは約5日間のパワーリザーブを持つ自動巻のキャリバーErosを搭載する。

Ref. PIC.60013
発表年 2014
状態 現行品
限定 通常生産
コレクション Cabinet des Mystères
カテゴリ ドレス
キャリバー Eros
ケース径 42 mm
防水 30 m
01 — Specification

仕様

As of WatchBase sync · 2026.06.12
Case · ケース
素材 Stainless Steel
形状 Round
42 mm
ガラス Sapphire
裏蓋 Open
防水 30 m
Movement · ムーブメント
キャリバー Eros
タイプ Automatic
振動数 28,800 bph
石数 28 石
パワーリザーブ 120 時間
Dial · 文字盤 / Hands · 針
文字盤色 Black
インデックス Roman Numerals
Spade
i — Editorial

設計思想

Design philosophy

「謎の小部屋」という器

Face to Faceが属するCabinet des Mystèresは、スピーク・マリンの中でも特異な位置にあるコレクションである。前身は2013年に始まった「Mechanical Art」シリーズで、翌2014年にCabinet des Mystères(謎の小部屋)へと改称されたと伝わる。通常コレクションが量産を前提とするのに対し、この枠は創業者ピーター・スピーク・マリン個人の物語と嗜好を映す実験場であり、一点物や少数限定の作品だけが収められてきた。PIC.60013は、その改称直後の2014年に世に出た作品である。

メメント・モリと骸骨ダイヤル

ピーター・スピーク・マリンは若い頃から「メメント・モリ(死を想え)」という中世ラテンの死生観に傾倒し、骸骨のモチーフを自身の作品に繰り返し用いてきたとされる。死を意識することは、残された時間を慈しむことの裏返しである——この前向きな読み替えが、彼の骸骨時計に共通する主題だ。Face to Faceでは、2つの骸骨が文字盤上で向かい合う。ブランドはこれを「時の中の鏡像」と説明しており、見つめ合う頭蓋骨は過去と未来、あるいは自己との対話を暗示する。

一点物の思想を量産外で実現する

PIC.60013の核心は、化学エッチングという技法の採用にある。手彫りのエングレービングではなく化学的な腐食で図像を起こすことで、髪の毛のように細い線描を均質に再現しながら、個体ごとに仕上げを変えて表情の異なるダイヤルを生むことができた。限定生産でありながら1本ごとに異なる、という「シリーズと一点物の中間」の在り方は、注文制作を旨とするCabinet des Mystèresの思想をそのまま製品化したものと言える。

Face to Faceモチーフの後日譚

向かい合う骸骨という構図はこの1本で終わらなかった。2015年にはシャッター機構で骸骨が現れる「Crazy Skulls」が発表され、2016年のバーゼルワールドでは18Kレッドゴールドケースにトゥールビヨンとダイヤモンドを組み合わせた「Skull Face to Face Tourbillon」が8本限定で登場する。ステンレススチールの時刻表示のみで構成されたPIC.60013は、この骸骨系譜の出発点に近い、最も簡潔な解と位置づけられる。


ii — Editorial

意匠分析

Visual analysis

Face to Faceの土台は、ブランド創設以来の象徴であるピカデリーケースである。径42mm、厚さ12mmのステンレススチール製で、ドラム(太鼓)を思わせる円筒形の胴、ネジ留めされた可動式のラグ、プリーツ状に刻まれた大径リューズという独自の構成を持つ。防水は30mにとどまり、本作が実用時計ではなく鑑賞のための作品として設計されていることを示す。

主役のダイヤルは洋銀(マイユショール)製。ペルラージュ(円形の魚鱗模様)で地を整えた上に、化学エッチングで2つの黒い骸骨を向かい合わせに描く。彫刻刀では困難な極細の線を腐食で起こすこの技法により、頭蓋骨の陰影や歯列の細部までが平滑な金属面に定着する。さらに個体ごとにエッチングの濃淡や地の仕上げを変えているため、同じ図柄でありながら2つとして同じ顔を持たない。外周にはローマ数字のチャプターが巡り、骸骨の図像を時計として成立させる枠組みを与えている。

針はポリッシュ仕上げのスチール製「ファウンデーション」ハンド。先端が膨らんだスペード型の意匠は、創業者が2002年の処女作以来使い続けてきた署名である。

ムーブメントは自動巻のキャリバーEros。テクノタイム社のTT738をベースに仕上げ直したもので、毎時28,800振動 (4Hz)、ツインバレルにより約5日間のパワーリザーブを確保する。シースルーバックからは、ブランドのロゴでもある時計師の工具「トッピングツール」を象ったローターが覗く。ストラップは生成りのステッチを効かせたアリゲーターで、ピンバックルで留める。


iii — Editorial

系譜と歴史

Lineage

Face to Face PIC.60013は2014年に製作された。WatchBaseは生産年を2014年と記録しており、Cabinet des MystèresがMechanical Artから改称された時期と重なる。発表の場や正確な月は公表資料からは確認できない。限定数についても公式の明示はなく、WatchBaseのデータ上は「限定なし」とされる一方、同サイトの解説文では「限定エディションであり、仕上げの違いにより各個体が一点物となる」と記される。少数生産で個体差を前提とした作品であることは確かだが、総生産本数は不明である。

その後、向かい合う骸骨の意匠は派生を生む。2015年のバーゼルワールドでは、シャッター機構を備えた「Crazy Skulls」が発表された。2016年の同見本市では、本作の構図を直接受け継ぐ「Skull Face to Face Tourbillon」が8本限定で登場する。18Kレッドゴールドのピカデリーケースに36個のバゲットダイヤモンドをセットし、6時位置にMagisterトゥールビヨンを据えた発展形だった。

2017年には創業者ピーター・スピーク・マリンがブランドを離れ、以後Cabinet des Mystèresは顧客の注文に応じて一点物や限定作を製作するビスポークサービスとして再定義された。PIC.60013は現行カタログには載っておらず、創業者在籍期の骸骨作品群を代表する1本として記録される存在となっている。