CH 28-520 QA 24H
2015年登場、フライバッククロノと年次カレンダーを束ねる、パテック フィリップの自社製自動巻
CH 28-520 QA 24Hは、2015年にRef.5905で初搭載された、パテック フィリップの自社製自動巻クロノグラフである。コラムホイールと垂直クラッチを備えた統合設計に、同社が1996年に発明した年次カレンダー機構を組み合わせる。振動数は28,800vph (4Hz)、パワーリザーブは45〜55時間、37石を擁する。テンプはGyromax、ヒゲゼンマイはシリコン系素材Silinvar製のSpiromaxを採り、パテック フィリップ・シールの認定を受ける。プラチナのRef.5905P、ローズゴールドのRef.5905R、スチールのRef.5905/1Aに積まれる、現代パテックの基幹クロノである。
| Maker | Patek Philippe |
|---|---|
| Reference | CH 28-520 QA 24H |
| Type | Automatic |
| Display | Analog |
| Frequency | 28,800 bph (4 Hz) |
| Jewels | 37 石 |
| Power reserve | 55 h |
| Movement ⌀ | 33 mm |
| Hands | Day / Night Indication, Hours, Minutes |
| Date | Annual Calendar, Date, Day, Month |
| Chronograph | Chronograph, Column wheel, Flyback |
系譜と歴史
1. 自社製クロノグラフへの道
パテック フィリップは長らく、クロノグラフの基幹部にレマニア社のエボーシュ(半製品)を用いてきた。自動巻クロノグラフを完全自社開発するという課題に同社が回答したのが、2006年のRef.5960である。ここに初搭載されたCH 28-520 IRM QA 24Hは、同社初の自社製自動巻クロノグラフであった。年次カレンダー(Quantième Annuel、月の大小を自動判別し年1回の修正で済む暦)とクロノグラフを初めて束ねた点でも画期をなす。年次カレンダー自体は、同社が1996年にRef.5035で発明・特許化した機構であり、その蓄積がこのキャリバーに流れ込んでいる。
2. シールと素材の世代交代
初代のCH 28-520 IRM QA 24Hは、ジュネーブ・シール(ジュネーブの伝統的な品質認定)を帯びていた。金属製ヒゲゼンマイと5姿勢調整を備える、当時の高級機の標準的な構成である。2009年、同社は独自の品質基準であるパテック フィリップ・シールを制定し、ジュネーブ・シールから移行する。さらに2010年以降、CH 28-520系を含む主要キャリバーには、シリコン系素材Silinvarから成るSpiromaxヒゲゼンマイが導入された。耐磁性と温度安定性に優れるこの素材は、調速機構の精度基盤を刷新するものであった。
3. 5905への再編
2015年、CH 28-520 IRM QA 24Hからパワーリザーブ表示と12時間積算計を省いた派生が登場する。これがRef.5905に積まれたCH 28-520 QA 24Hであり、5960の後継機として位置づけられた。ダイヤル上部の弧に曜日・日付・月を配し、6時位置に昼夜表示付きの60分積算計を置く。複雑な情報を整理しようとする、同社の設計思想を映す構成である。2021年にはスチールケースのRef.5905/1Aが加わり、年次カレンダー・クロノを日常使いの領域へと広げた。CH 28-520系は、多様な派生を生む基幹系列でもある。このQA 24Hのほか、ワールドタイム版CH 28-520 HU、基本クロノのCH 28-520 Cなどが連なる。
技術解説
CH 28-520 QA 24Hは、自動巻クロノグラフのベース機に年次カレンダー・モジュールを重ねた構造を採る。基盤部の直径は30mm、カレンダー機構を含む全体は33mm、総厚は7.68mmに収まる。総部品数は402、石数は37石である。
クロノグラフの制御は、コラムホイール(柱状の歯車。起動・停止・復針を統括する司令塔)が担う。始動と停止の伝達には垂直クラッチ(円盤同士の摩擦で連結する方式)を用いる。水平クラッチで生じやすい針飛びがなく、クロノ秒針を常用秒針のように連続作動させられる点が特徴である。加えてフライバック機構を備え、作動中でも一押しで瞬時に復針と再計測へ移れる。
上層の年次カレンダーは、レバーやロッカーではなく歯車とピニオン主体で構成される。回転運動による制御は安定性に優れ、月の大小(30日と31日)を自動で判別する。閏年の2月のみ年1回の手動修正を要するが、それ以外は無調整で正しい日付を保つ。1996年取得の特許に連なる設計である。
調速機構には、フリースプラング(緩急針を持たない方式)のGyromaxテンプを据える。テンプ周縁の慣性おもりを動かして調整するため、ヒゲゼンマイの有効長を変えずに精度を追い込める。ヒゲゼンマイは、シリコン系素材Silinvarから削り出したSpiromaxを採る。Silinvarは耐磁性が高く、温度変化による弾性の変動が小さい。外端付近を厚くした独自形状により、等時性(振幅が変わっても周期を保つ性質)を高めている。振動数は28,800vph (4Hz)である。これは毎秒8振動に相当し、クロノ秒針へ1/8秒刻みの計測分解能を与える。高い振動数は、姿勢差や外乱に対する歩度の安定にも寄与する。パワーリザーブは45〜55時間を確保する。
巻上げは21Kゴールド製の中央ローターによる単方向自動巻である。片方向のみで巻き上げる方式は、両方向式より機構を簡素に保ちつつ、香箱へ安定してエネルギーを蓄える。仕上げ面では、ローターやブリッジにコート・ド・ジュネーブ(波状の装飾)を施し、面取りや研磨を加える。認定はパテック フィリップ・シールで、日差-3/+2秒という精度基準を課す。これはクロノメーター規格(COSC、日差-4/+6秒)より厳しい水準である。同シールは、ムーブメント単体を対象としたジュネーブ・シールと異なり、ケースやダイヤルを含む完成時計の全体を審査の範囲に置く。歩度の判定も、組み上げた時計の状態で行われる。