26-330 S QA LU
1996年に発明された年次カレンダーを継ぐ、ムーンフェイズ付き自動巻の現行基幹キャリバー
パテック フィリップが1996年に発明・特許化した年次カレンダー(アニュアルカレンダー)機構を担う、自動巻の現行基幹キャリバーである。曜日・月・日付と月相を表示し、年に一度、2月末の修正だけで正しい日付を保つ。先代324 S QA LUを2019年に登場した26-330系の土台へ刷新したもので、28,800vph (4Hz)、34石、パワーリザーブ35〜45時間を備える。巻き上げは21Kゴールド製の中央ローター、調速はジャイロマックステンプとシリコン系素材のスピロマックスひげゼンマイが担う。現行では4946やアクアノート 5261Rに搭載される。
| Maker | Patek Philippe |
|---|---|
| Reference | 26-330 S QA LU |
| Type | Automatic |
| Display | Analog |
| Frequency | 28,800 bph (4 Hz) |
| Jewels | 34 石 |
| Power reserve | 45 h |
| Movement ⌀ | 30 mm |
| Hands | Hours, Minutes, Seconds |
| Date | Date, Day, Annual Calendar, Month |
| Astronomical | Moonphase |
系譜と歴史
1. 年次カレンダーという発明
1996年以前のパテック フィリップのカレンダーは、曜日と日付を示す簡素な機構か、100年に一度の修正で足りる永久カレンダーの二択であった。後者は部品点数と整備の負担が大きく、日常使いには敷居が高い。その中間を埋める発明として、同社は1996年に年次カレンダーを世に問う。30日と31日の月を自動で読み分け、修正は年に一度、2月末のみ。うるう年と2月の日数までは追わない代わりに、機構を簡素化し扱いやすさを得た複雑機構である。
初号機はRef.5035。搭載キャリバーは自動巻のCal.315 S QAで、同年の「ウォッチ・オブ・ザ・イヤー」(Montres Passion誌)に選ばれた。機構の原型は1991年頃、ジュネーブの技術学校に与えられた卒業研究の課題に遡るとされ、産学連携から生まれた点でも異色の出自を持つ。
2. ディスクで月の長さを読む
年次カレンダーの設計思想は、永久カレンダーとは異なる。永久カレンダーが月の長さをレバーとカム(40カ月や48カ月周期の歯車状の部品)で記憶するのに対し、本機構は歯車とピニオン(小歯車)による連続的な伝達で月の長さを読み分ける。この方式は構造が直感的で、修正時の操作も穏やかである。
興味深いのは部品点数で、26-330 S QA LUは319点、先代の324 S QA LUは328点に達する。月相付き永久カレンダーが約280点で組めることを思えば、簡素なはずの年次カレンダーがむしろ多くの部品を要する。これは安易な簡略化ではなく、歯車主体の構成を選んだ設計上の判断の表れといえる。
3. 324から26-330へ
年次カレンダーのムーンフェイズ機は、Cal.315系から324 S QA LU、そして現行の26-330 S QA LUへと世代を重ねてきた。土台となる26-330系は2019年に登場し、週カレンダーのRef.5212Aで初めて披露されたのち、各複雑機構へ展開された。324系からの主な改良は、新設計の自動巻機構(ローターの断続機構)、日送り表示のガタを抑える機構、そして秒針停止(ハック)機能の追加である。
324 S QA LUから26-330 S QA LUへの移行では、部品点数が328点から319点へと整理された。基本スペックである4Hzの振動数や34石といった構成は継承しつつ、巻き上げと操作性を現行世代の水準へ引き上げた更新である。
4. 表示違いと業界での位置
本キャリバーには、曜日と月を文字盤上の小針(サブダイヤル)で示す基本仕様と、曜日・日付・月を窓表示にまとめ24時間表示を加えた26-330 S QA LU 24Hの二系統がある。前者は4946やアクアノート 5261R、後者は5396やノーチラス 5726などに搭載される。なお5350に代表されるアドバンスト・リサーチ系では、シリコン製脱進機など実験的機構が投入されてきたが、これらは限定研究の系譜であり、量産機とは区別される。
年次カレンダーはパテック フィリップが切り拓いた領域であり、他社が独自方式を持つまでには10年以上を要したと言われる。本キャリバーは、その発明を現行ラインで受け継ぐ位置にある。
技術解説
カレンダー機構
26-330 S QA LUの核は、歯車とピニオン(小歯車)を主体とした年次カレンダー機構にある。永久カレンダーがレバーとカムで月の長さを記憶するのに対し、本機は連続的な歯車伝達で30日・31日の月を読み分ける。総部品点数は319点で、構造の大半をこの暦機構が占める。操作はリュウズと数個の押しボタン(修正用プッシャー)で行い、曜日・日付・月・月相をそれぞれ独立して合わせられる。
月相表示は精度が高く、実際の朔望月との誤差は122年で1日に留まるとされる。歯数の大きい月齢車を用いることで、長周期にわたり微小なずれに抑える設計である。
年に一度の修正が必要となるのは、本機構が2月の日数(28日・29日)までは追わないためである。2月から3月への移行時のみ、ケースサイドの修正プッシャーで日付を進める。それ以外の月替わりは、文字盤を操作することなく自動で切り替わる。
調速機構
振動数は28,800vph (4Hz)。1秒間に8回テンプ(調速の振り子に相当する回転体)が振れる現代の標準的な速さで、耐衝撃性と精度のバランスに優れる。テンプにはジャイロマックスを採用する。これはひげゼンマイ外端を固定する緩急針(調整用の指針)を持たず、テンワのリムに配した数個の調整ウェイトの位置で歩度を整える、フリースプラング式の自社製テンプである。緩急針式に比べ、衝撃や姿勢差による狂いに強い。
ひげゼンマイはスピロマックス。シリコン系素材シリンバーから成り、深堀りエッチング(DRIE)で精密に成形される。シリンバーは温度補償性を備え、磁気の影響を受けにくく、従来の金属ひげに比べ軽量である。スピロマックス特有の終端形状(パテント取得済みの巻き上がり)により等時性を高めている。なお量産仕様の脱進機は実験系のシリコン製脱進機とは異なり、従来型のスイスレバー脱進機を踏襲する。
巻き上げと仕上げ
巻き上げは中央配置の21Kゴールド製ローターによる自動巻で、一方向巻きを採る。金の高い比重が運動エネルギーの効率を高め、パワーリザーブは35〜45時間を確保する。26-330世代では自動巻機構が刷新され、秒針停止機能も加わったため、時刻を秒単位で合わせられる。仕上げと品質はパテック フィリップ・シール(2009年導入の自社認定)に準拠する。ムーブメントの歩度許容差は日差-3〜+2秒を基準とし、本機のようにスピロマックスを備えるものは日差-1〜+2秒のより厳しい基準で認定されるとされる。