系譜と歴史
1. クロノメトリーへの構想
フランソワ=ポール・ジュルヌは、独立時計師として精度の追求を一貫した主題としてきた。Cal. 1510を搭載するクロノメーター・オプティマムは、その腕時計向けクロノメトリー研究の到達点に位置づけられる。ジュルヌが目指したのは、ムーブメント内部の摩擦を可能な限り削減し、安定した精度を得ることであった。ジュルヌがこの構想を描いたのは2001年とされる。当時すでに、毎秒一定の力を供給するルモントワール・デガリテ(一定力機構)に、デッドビート秒を組み込む着想を得ていた。しかし同時期、オクタ・キャリバーやソヌリ・スーヴェレーン、サントグラフ・スーヴェレーン、レペティション・スーヴェレーンの開発が続き、量産化は先送りされた。構想から完成まで約11年を要し、Cal. 1510として結実したのは2012年である。
2. 三つの機構の統合
Cal. 1510の核心は、精度に資する複数の機構を一台に集約した点にある。並列に配した2つの香箱、一定力を供給するルモントワール、二軸脱進機EBHP、そしてナチュラル・デッドビート秒。これらの要素を単一のキャリバーへまとめた例は、発表当時には他になかったとされる。個々の機構自体は時計史に前例があるが、それらを摩擦低減という一つの目的のもとに束ねた構成に独自性がある。2001年の構想に含まれていたデッドビート秒とルモントワールの組み合わせは、2004年のトゥールビヨン・スーヴェレーン(デッドビート秒付)にも継承されている。ジュルヌの一定力機構への取り組みはさらに古く、1983年の懐中時計、1991年のトゥールビヨン・スーヴェレーン試作機にその源流が見られる。
3. 素材選択と設計思想
脱進機の摩擦低減という課題に対し、各社は異なる解を選んできた。シリコン製の脱進機部品を採用するブランドがある一方、ジュルヌは無給油で機能する二軸脱進機を、ベリリウム銅合金・チタン・ルビーといった伝統的な素材で構成する道を選んだ。これは保守性や経年変化への考え方を反映した設計思想であり、優劣ではなく方針の差異である。複雑機構を競う潮流のなかで、Cal. 1510は表示機能を時・分・秒に絞り、精度の安定に資源を集中させた。オプティマム(最適)という名は、この設計姿勢を端的に示している。