1510 CO
2012年発表、二軸脱進機と一定力機構によって精度の安定を追求した、F.P.ジュルヌの手巻キャリバー
Cal. 1510は、独立時計師フランソワ=ポール・ジュルヌが2012年に発表した手巻キャリバーである。クロノメーター・オプティマムという1本のモデルのために開発された。設計の構想は2001年に遡り、約11年の歳月を経て量産へ至った。並列配置の2香箱、チタン製の一定力ルモントワール、無給油の二軸脱進機EBHP、そして文字盤裏のナチュラル・デッドビート秒を一台に統合する。振動数は21,600vph (3Hz)、44石、パワーリザーブは70時間。複雑機構ではなく、時刻表示の精度そのものを突き詰めた基幹機である。
| Maker | FP Journe |
|---|---|
| Reference | 1510 CO |
| Type | Handwound |
| Display | Analog |
| Frequency | 21,600 bph (3 Hz) |
| Jewels | 44 石 |
| Power reserve | 70 h |
| Movement ⌀ | 34.4 mm |
| Hands | Hours, Minutes, Small Seconds, Jumping Seconds |
| Additional | Power Reserve Indicator |
系譜と歴史
1. クロノメトリーへの構想
フランソワ=ポール・ジュルヌは、独立時計師として精度の追求を一貫した主題としてきた。Cal. 1510を搭載するクロノメーター・オプティマムは、その腕時計向けクロノメトリー研究の到達点に位置づけられる。ジュルヌが目指したのは、ムーブメント内部の摩擦を可能な限り削減し、安定した精度を得ることであった。ジュルヌがこの構想を描いたのは2001年とされる。当時すでに、毎秒一定の力を供給するルモントワール・デガリテ(一定力機構)に、デッドビート秒を組み込む着想を得ていた。しかし同時期、オクタ・キャリバーやソヌリ・スーヴェレーン、サントグラフ・スーヴェレーン、レペティション・スーヴェレーンの開発が続き、量産化は先送りされた。構想から完成まで約11年を要し、Cal. 1510として結実したのは2012年である。
2. 三つの機構の統合
Cal. 1510の核心は、精度に資する複数の機構を一台に集約した点にある。並列に配した2つの香箱、一定力を供給するルモントワール、二軸脱進機EBHP、そしてナチュラル・デッドビート秒。これらの要素を単一のキャリバーへまとめた例は、発表当時には他になかったとされる。個々の機構自体は時計史に前例があるが、それらを摩擦低減という一つの目的のもとに束ねた構成に独自性がある。2001年の構想に含まれていたデッドビート秒とルモントワールの組み合わせは、2004年のトゥールビヨン・スーヴェレーン(デッドビート秒付)にも継承されている。ジュルヌの一定力機構への取り組みはさらに古く、1983年の懐中時計、1991年のトゥールビヨン・スーヴェレーン試作機にその源流が見られる。
3. 素材選択と設計思想
脱進機の摩擦低減という課題に対し、各社は異なる解を選んできた。シリコン製の脱進機部品を採用するブランドがある一方、ジュルヌは無給油で機能する二軸脱進機を、ベリリウム銅合金・チタン・ルビーといった伝統的な素材で構成する道を選んだ。これは保守性や経年変化への考え方を反映した設計思想であり、優劣ではなく方針の差異である。複雑機構を競う潮流のなかで、Cal. 1510は表示機能を時・分・秒に絞り、精度の安定に資源を集中させた。オプティマム(最適)という名は、この設計姿勢を端的に示している。
技術解説
基本仕様
Cal. 1510は手巻で、振動数21,600vph (3Hz)、44石、240部品で構成される。プレートとブリッジは18Kローズゴールド製で、これはF.P.ジュルヌのムーブメントに共通する特徴である。直径は34.40mm。表示は時・分(偏心)、スモールセコンド、パワーリザーブ、そして裏側のデッドビート秒からなる。
2つの香箱と一定力ルモントワール
本機は2つの香箱を直列ではなく並列に配置する。直列であればパワーリザーブの延長に寄与するが、並列配置の目的はそこにない。2本のゼンマイが協働して駆動力を供給し、輪列へ伝わるトルクをより均一に保つ狙いである。パワーリザーブは70時間。
香箱から脱進機へ至る駆動力は、ゼンマイの巻き状態によって変動する。ルモントワール・デガリテ(一定力機構、特許EP 1 528 443 A1)は、毎秒巻き直される独立した小さなバネを介して、脱進機へ一定の力を供給する。テンプの等時性を保つための機構である。この部品をジュルヌは初めてチタンで製作した。軽量ゆえに駆動に要するエネルギーが小さく、姿勢差による影響も抑えられる。ルモントワールの輪は文字盤側から確認できる。
ナチュラル・デッドビート秒
ルモントワールが毎秒巻き直される動きに連動し、秒針が1秒ごとに歩進する。一般的な秒針が連続的に運針するのに対し、これは1秒刻みで停止しながら進む。追加の複雑機構ではなく、一定力機構の動作から自然に得られるため「ナチュラル」と呼ばれる。表示はムーブメント裏側に配される。
二軸脱進機EBHP
Echappement Bi-axial Haute Performance(高性能二軸脱進機、特許EP 11405210.3)は、本機の最も特徴的な要素である。ブレゲのナチュラル脱進機の系譜にある二軸式で、1つではなく2つのガンギ車に力を分散させ、摩擦を低減する。テンプの軸へ直接インパルスを与える直接駆動式で、潤滑油を必要としない。直接駆動式でありながら自力で起動できる点が、同種の脱進機との違いとされる。ガンギ車と軸はチタン製である。
調速機構と仕上げ
テンプ(調速の振り子に相当する輪)は慣性ブロックを備えたフリースプラング式で、ヒゲゼンマイにはフィリップス曲線の終端カーブを採用する。いずれも等時性の向上に資する。無給油の脱進機により、パワーリザーブのうちおよそ最初の50時間は振幅が一定に保たれるとされる。文字盤上のパワーリザーブ表示は、最適な巻き上げの目安を示す。ローズゴールドのムーブメントには、コートドジュネーブ、ペルラージュ、面取りされたブリッジ、研磨されたネジ頭といった仕上げが施される。