系譜と歴史
1. マニュファクチュール創設という賭け
1980年代まで、ショパールは「ハッピーダイヤモンド」に代表される宝飾時計の作り手として広く知られていた。流れを変えたのは、共同社長カール=フリードリッヒ・ショイフレの構想である。クォーツ危機を経て多くのメーカーが自社製造を手放すなか、彼は機械式の自社一貫生産への回帰を志した。1993年、ショイフレはフルリエに開発チームを組織する。当初は名匠ミシェル・パルミジャーニの協力を仰いだが、巻き上げ効率の課題に直面し、開発は完全に自社へ引き取られた。約4年の試作を経て、1995年末に20個のプロトタイプが完成する。これが基幹キャリバー 1.96(後の 96.01-L)である。この自社製ムーブメントは高く評価され、搭載モデルの L.U.C 1860 は「ウォッチ・オブ・ザ・イヤー」に輝いた。
2. 暦複雑への展開
96.01-L は厚さ3.3mmの薄型自動巻きで、複雑機構を載せる土台として設計された。ショイフレは当初から、モジュールの追加で複雑時計へ育てられる構造を求めていた。汎用ムーブメントに頼る作り手が多かった時代に、自社の基盤から複雑機構を組み上げる姿勢は際立っていた。その構想が結実したのが、2005年の L.U.C ルナ ワンである。96系を母体とするキャリバー 96.13-L は、マニュファクチュール初の暦複雑機構を担い、パーペチュアルカレンダーを統合した世代となった。基盤の薄さを保ちつつ暦モジュールを重ね、全体の厚さは6mmに収まる。
3. オービタルムーンという独自解
96.13-L を際立たせるのは、軌道を描くように回転するムーンフェイズである。月は小秒針の軸を中心に回る窓の中に現れ、北半球の北斗七星と南半球の南十字星の双方の星空を映す。その精度は122年に1日の誤差にとどまるとされ、設計思想は実用と詩情の両立にある。暦と天文表示を一つの文字盤へ織り込むこの解法は、ショパールが自社の複雑機構で示した固有の回答といえる。