設計思想
黒一色だった定番への、3年目の追加色
ブラックベイ54は2023年3月のウォッチズ&ワンダーズで、黒文字盤の79000Nとして登場した。1954年に発表されたブランド初のダイバーズウォッチ、オイスタープリンス サブマリーナー Ref.7922を最も忠実になぞるモデルであり、37mmのケース径と分目盛りを省いたベゼルによって、ブラックベイ系列で最小のダイバーズという立ち位置を確立している。以後、定番コレクションとしてのブラックベイ54は黒一色のまま推移してきた。
M79000B-0001が発表された2026年は、ブランド名「The Tudor」の商標登録(1926年)から100年の節目にあたる。この年、チューダーは100周年を意識した新作群を発表したが、ブラックベイ54に与えられたのは機構の更新ではなく、第2の定番色だった。
「チューダーブルー」の回帰
新色の青は、ブランドが「チューダーブルー」と呼ぶ彩度の高いサファイアブルーである。公式はこれを伝統色の「回帰」と位置づける。青い文字盤とベゼルの組み合わせは、スノーフレーク針と同じく1969年のサブマリーナーで導入されたとされ、1970年代にはフランス海軍の戦闘ダイバーへの供給を通じてチューダーを象徴する色となった経緯を持つ。
現行コレクションでもこの構図は繰り返されてきた。2018年に黒で登場したブラックベイ58は、2020年にネイビーブルーのM79030Bを第2の色として迎えている。ブラックベイ54が3年を経て青を加えた流れは、この前例を踏襲したものと読める。ただし色調は異なり、58の沈んだネイビーに対して54の青は明度・彩度ともに高く、光によっては紫がかって見えるとも評される、より現代的な青である。
2つの青、2つの性格
ブラックベイ54には先行する青がすでに存在していた。2025年6月に発表された「ラグーンブルー」M79000-0001である。ただし両者の性格は明確に異なる。ラグーンブルーは砂目調の淡い青文字盤に鏡面研磨スチールのベゼルと5連ブレスレットを組み合わせたリゾート志向の派生で、公式サイトでは「Daring watches」の枠で紹介される。一方の79000Bは、アルミニウム製ベゼルインサートとリベット風3連ブレスレット、ラバーストラップという79000Nの道具的な構成をそのまま引き継いだ、定番ラインの正面からの追加色である。同年のブラックベイ58がMETAS認定ムーブメントへ移行したのとは対照的に、54はCOSC認定のMT5400を維持しており、このRefにおける進化の軸が機構ではなく色に置かれていることを物語っている。
意匠分析
本作の設計は、79000Nで完成した型を動かさず、色だけを差し替えるという選択に貫かれている。ケースは直径37mm、厚さ11.2mm、ラグ間距離46mmで、サテン仕上げを基調にポリッシュを差し込む造形も先行Refと共通する。リューズガードを持たない小径リューズにはチューダーローズが浮き彫りされ、Ref.7922が備えていたスモールクラウンの記憶を引き継ぐ。
文字盤はドーム状に湾曲した青で、放射状のサテン(サンレイ)仕上げが施される。2025年のラグーンブルーが砂目調のマットな質感だったのに対し、本作はブラッシュ目が光を拾い、見る角度によって明るい青から紫がかった色味まで表情を変えるとされる。植字インデックス、スノーフレーク時針、剣型の分針、円形カウンターウェイトのロリポップ秒針という構成は79000Nと同一で、針は1954年当時のモデルに倣い根元が絞られた形状を持ち、夜光にはグレードAのスーパールミノバを用いる。79000Nを特徴づけたギルト(金色調)のアクセントは本作には引き継がれていないとされ、白系の刷りと冷たい青の組み合わせが、黒×金の温かみとは対照的な現代的印象を生む。
ベゼルは60クリックの逆回転防止式で、文字盤と色を揃えた青のアルミニウム製インサートを備える。最大の意匠的特徴は、ダイバーズベゼルの定石である分単位の細かい目盛りを持たないことだ。Ref.7922から受け継いだこの省略は、ベゼルを計器というより一枚の色面として見せ、200m防水の実用性を保ちながら、印象を道具からやや遠ざける。
ブレスレットはリベット風の3連スチールで、ポリッシュとサテンを使い分けた仕上げを持つ。クラスプは工具なしで約8mm・5段階の長さ調整ができる「T-fit」で、37mmという小径ケースの装着感を一日の手首の変化に追従させる。ムーブメントはケニッシ製の自社キャリバーMT5400。COSC認定に加えチューダー独自の日差-2〜+4秒の基準で調整され、シリコン製ヒゲゼンマイ、両持ち式のテンプブリッジ、約70時間のパワーリザーブを備える。毎時28,800振動 (4Hz)で駆動する3針・ノンデイト構成は、文字盤の対称性を崩さない点で小径Refとの相性が良い。
系譜と歴史
M79000B-0001は2026年4月14日、ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2026(会期は4月14日から20日)の開幕に合わせて発表された。ラバーストラップ仕様のM79000B-0002との2本同時の登場で、いずれも限定生産ではなく通常コレクションに属し、発表と同時に正規販売網での展開が始まっている。発表年の2026年はブランド名の商標登録(1926年)から100周年にあたり、同じ会期にはモナークの復活やブラックベイ58の刷新、ブラックベイ セラミックの新作などが並んだ。本Refは、2023年3月発表の79000N以来およそ3年ぶりとなる、ブラックベイ54定番ラインへの追加モデルである。なお同シリーズでは2025年6月に「ラグーンブルー」M79000-0001が発表されているが、これは5連ブレスレット仕様の別Refであり、本Refの系統とは区別される。2026年6月時点で本Refは現行品であり、文字盤やブレスレットに関わる仕様変更、追加の派生Refは確認されていない。