1987年以来の新シリーズ
2007年、TAG Heuerはカレラの最上位ラインとしてグランドカレラを発表した。1963年に始まったカレラの名を、より高級な領域へと押し上げる試みであった。着想源は現代のGTカーである。スポーツカーの計器盤を腕の上に再現する、という発想がシリーズ全体を貫いた。
自動車の計器盤に着想した回転ディスク表示を核に、カレラを高級域へと押し上げた技術志向のシリーズ
TAG Heuerが2007年に発表した、カレラの最上位ライン。GTクーペの計器盤に着想を得た回転ディスク式の表示機構「回転システム(Rotating System、RS)」を核に、針に頼らない小秒針・GMT・クロノグラフ表示を提案した。発表時の各機はCOSC認定の機械式で、小秒針のCalibre 6 RS、ビッグデイトGMTのCalibre 8 RS、クロノグラフのCalibre 17 RS、そして5Hzの高振動で1/10秒を計るCalibre 36 RSが並ぶ。ブランドの前衛的な技術を世に問う器でもあった。
2007年、TAG Heuerはカレラの最上位ラインとしてグランドカレラを発表した。1963年に始まったカレラの名を、より高級な領域へと押し上げる試みであった。着想源は現代のGTカーである。スポーツカーの計器盤を腕の上に再現する、という発想がシリーズ全体を貫いた。
グランドカレラを特徴づけたのは、針や通常の小針盤に代えて回転ディスクで情報を示す「回転システム(Rotating System、RS)」である。小秒針、第二時間帯(GMT)、クロノグラフの計測値を、ダッシュボードの計器のように一瞥で読ませる狙いがあった。発表時のラインナップは三つ。6時位置に回転式の小秒針を備えるCalibre 6 RS、12時のビッグデイトと回転式GMTを持つCalibre 8 RS、そして二つの回転システムを文字盤に収めたクロノグラフCalibre 17 RSである。各機はCOSCの認定を受けた自動巻きで、100m防水を備える。Calibre 17 RSの回転システムは3時に小秒針、9時にクロノグラフの分積算計を示し、ディスクにはコート・ド・ジュネーブと面取りの磨きが施された。ケース径はCalibre 8 RSが42.5mm、Calibre 17 RSが43mmと、当時のカレラより一回り大きい。
シリーズの技術的な頂点は、2008年のバーゼルワールドで公開されたCalibre 36 RS キャリパー・コンセプトに置かれた。心臓部のCalibre 36は、コラムホイールを備えたCOSC認定の自動巻クロノグラフで、毎時36,000振動 (5Hz)の高振動により中央の秒針を1/10秒刻みで進め、1/10秒の計測を可能にした。文字盤外周には「キャリパー」と呼ぶ回転目盛を備え、計測を止めたあと10時のリューズで動かして1/10秒を読み取る。43mmのケースは黒いチタンカーバイドで被膜され、3時と6時の回転システムがクロノグラフの分と時を示す。フェラーリ・エンツォを手がけたケン・奥山はこの時計に着想を得て自らのGTカーK.O.7の内装を設計し、その計器盤にこの時計を据えた。同年のジュネーブ時計グランプリでスポーツウォッチ部門の賞を受け、2009年に市販化された。
2010年、創業150周年を迎えたTAG Heuerは、グランドカレラの名のもとにさらに踏み込んだ試作を示した。ペンデュラム・コンセプトである。これは伝統的なひげぜんまいを複数の磁石による磁場で置き換え、調速機構そのものを再構築しようとした実験であった。同社はこれを「ひげぜんまいを持たない世界初の磁気式調速機」と説明している。量産には至っていない。グランドカレラは、こうした前衛的な技術を世に問う器としての性格を強めていった。
グランドカレラに、世代交代は訪れなかった。シリーズは大きな刷新を経ないまま2010年代前半まで併売され、その後カタログから姿を消したとされる。2010年代半ばのTAG Heuerは、Heuer 01に代表される自社開発ムーブメントと、より手の届く価格帯へ軸足を移していく。汎用ムーブメントを基礎とし、高価格を前提としたグランドカレラは、その新しい方向性とは交わらなかった。一代で完結したシリーズだが、回転ディスク表示と一連のコンセプトは、2000年代後半のTAG Heuerが何を試みたかを今に伝えている。
グランドカレラの設計言語は、ただ一点に集約される。針を回転ディスクに置き換えるという選択である。小秒針、GMT、クロノグラフの計測値を、文字盤上を回る円盤と固定の指標で読ませる。発想の源はGTカーの計器盤であり、走行中でも一瞥で数値を把握させる、計器としての可読性が、装飾や伝統的な作法よりも優先された。
この思想が、シリーズ全体の意匠を規定した。Calibre 6 RSは6時の小秒針ディスク、Calibre 8 RSは回転システムで示す第二時間帯とビッグデイト、Calibre 17 RSは3時と9時に二つの回転システムを配する。Calibre 36 RS キャリパーに至っては、9時の秒表示を縦長のスリットを上下する「リニア・システム」とし、針という概念をさらに後退させた。
ケースは42.5〜43mmと大ぶりで、ジュネーブ縞と面取りの磨きを施した回転ディスク、手で植えたロゴやインデックス、二重のサファイアクリスタルが共通の語彙となる。装飾は表示機構の演出に向けられ、回転ディスクそのものを主役に据える構成が貫かれた。
変わらなかったのは、この回転ディスクという表示言語である。一方で機械の野心は、汎用の自動巻きから始まり、5Hzの高振動クロノグラフ、そして磁気式調速機の試作へと段階を上げていった。同時代のカレラが伝統的な三針・三つ目の構成を保ったのに対し、グランドカレラは表示そのものを再設計した。ディスク表示は可読性をめぐって評価が分かれもしたが、ダッシュボードという一貫した比喩のもとで、シリーズは最後まで認識可能な独自の輪郭を保ち続けた。
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