設計思想
創業20周年の年に生まれた記念碑
Speake-Marinは2002年、英国出身の時計師ピーター・スピーク・マリンがスイスで興した独立系ブランドである。創業者は2017年にブランドを離れたが、その後はクリステル・ロノブレ率いる体制のもとで自社ムーブメント開発を進め、製品ラインの刷新を続けてきた。その転換を象徴したのが、2022年3月に発表されたリップルズだ。ブランド初のスチール製一体型ブレスレットウォッチであり、ラグジュアリースポーツという激戦区へ独自の造形で参入する宣言でもあった。
604015070は、その初代リップルズからわずか半年余りで登場した。2022年はブランド創業からちょうど20年にあたる。節目の年に生まれたばかりの新コレクションを記念モデルの土台に選んだことは、リップルズを今後のブランドの顔に据えるという意思表示として読める。
ケースではなくダイヤルを金にする
周年記念モデルでは、ケースを貴金属に置き換える手法が一般的である。しかし本Refはスチールケースと一体型ブレスレットをそのまま残し、ダイヤルだけを18Kイエローゴールドの無垢材とした。リップルズの個性がケース形状以上に、波紋状の溝が刻まれたダイヤルの立体表現に宿っているからだろう。シャンパンゴールドの輝きが波紋の陰影を強調し、基幹モデルの黒や灰色のダイヤルとは異なる表情を生む。ダイヤル上には「2002/2022」の記念表記と、18金を示す「Au750」の刻印が加えられた。
コレクション拡張の起点として
本Refはリップルズにとって最初の派生モデルであり、基幹Ref 604015040の設計がバリエーション展開に耐えうることを示した。実際、2023年にはビッグデイト窓を備えたリップルズ デイトが続き、その後ブルーダイヤルのブルージーンズ、2024年のジュネーブ・ウォッチ・デイズで発表されたスケルトン仕様が加わり、2025年にはローズゴールドケースの「リップルズ ゴールド」が登場した。なお公式サイトやWatchBaseでは本Refも「Ripples Gold」と表記されることがあり、2025年の金無垢ケースモデルとは別物である点に注意が必要だ。記念モデルとしての役割を超えて、コレクションが多層的に育っていく流れの出発点に立つRefである。
意匠分析
ケースは基幹モデルと共通の「La City」。角を大きく丸めたスクエアとサークルの中間的な輪郭を持ち、直径40.3mm、厚さ9.20mmに収められている。この薄さを支えるのがマイクロローター式の自社開発ムーブメントであり、ローターを地板と同一平面に組み込むことで全高を抑えた。ケース右側面はリューズを抱き込むように張り出し、ローレット加工を施したリューズと一体的な造形をなす。風防と裏蓋の両面に無反射コーティングのサファイアクリスタルを備える。
本Ref固有の要素はダイヤルにある。18Kイエローゴールドの無垢材に、コレクション名の由来である波紋状の溝をサテン仕上げで刻み、光の角度によって陰影が流れるように変化する。1時半位置のスモールセコンドも金無垢で作られ、ポリッシュ仕上げの植字インデックスとともに、地色との同色系の中で質感差によるコントラストを構成する。この1時半という偏心配置はブランドの署名的な意匠であり、ハート型の先端を持つロジウムプレート仕上げの針と並んで、スポーツウォッチの文法に独立時計師の語彙を持ち込んでいる。
ムーブメントはCal.SMA03-T20。基幹モデルのSMA03-Tと基本設計を共有し、相違は仕上げにあるとされる。ジュネーブストライプ、手作業による内角の面取りなど装飾が高められ、部品数145、石数31という公式値を持つ。毎時28,800振動 (4Hz)、パワーリザーブは約52時間。ブレスレットはテーパーの効いた3列リンクの一体型で、ポリッシュとブラッシュを使い分けた仕上げがフォールディングバックルまで連続する。
系譜と歴史
リップルズのコレクション自体は2022年3月に発表された。ブランド初のスチール製ブレスレットウォッチとして登場した基幹Ref 604015040が、その出発点である。本Ref 604015070はその約7か月後、2022年10月に「リップルズ アニバーサリー」として公開された。創業年と発表年を併記した「2002/2022」のダイヤル表記が示す通り、創業20周年を記念する位置づけであり、生産は世界限定50本と公式に告知された。発表時の定価はCHF34,900(税抜)である。
本Refを起点として、コレクションはその後も拡張を続けた。2023年には6時位置にビッグデイトを備えたリップルズ デイトが加わり、続いてブルーダイヤルのリップルズ ブルージーンズが、2024年のジュネーブ・ウォッチ・デイズではスケルトン仕様のリップルズ スケルトンが発表された。2025年のWatches and Wondersでは、コレクション初の金無垢ケースを採用したリップルズ ゴールドが登場している。公式サイトおよびWatchBaseが本Refを「Ripples Gold」の名で記載する場面があるため、2025年のローズゴールドケースモデルとの混同には注意を要する。
限定50本という生産数の性質上、本Refの製造は短期間で完了したとみられるが、生産終了の公式な告知は確認できていない。公式サイトのコレクションページには本Refの掲載が続いていると伝わる。