設計思想
1. 1955年の名を、2010年に再び
レディマティックは、1955年に登場したオメガ初の女性用自動巻き腕時計の名である。半世紀を経てこの名が戻った2010年、女性用の高級時計はクオーツ搭載機が主流だった。新しいレディマティックは、その領域に最新世代の機械式ムーブメントを持ち込むために企画された。
Worldtempusの報道によれば、構想の起点はスウォッチ グループのニコラス・G・ハイエックにあったとされる。2008年のバーゼル直後、ハイエックがオメガの製品開発責任者ジャン=クロード・モナションに打診し、設計と開発に2年を要したと伝わる。当時の社長スティーブン・アークハートは、時計を買う女性が内部の機構にも強い関心を寄せるようになったと語っている。
2. 復刻ではなく、女性のための新しい設計
新生レディマティックは、1950年代のモデルを縮小再現する道を選ばなかった。ケース径は34mmに定められ、意匠は波をモチーフとして新たに描き起こされた。男性用モデルを小さくしたものではない、女性専用のラインとして構想された点がコレクションの出発点である。
一方でムーブメントは、オメガの男性用モデルと同じ技術水準に置かれた。コーアクシャル脱進機とシリコン製ヒゲゼンマイを組み合わせ、全モデルがクロノメーター認定を受ける。外観と機構を切り離さないという方針は、発表時の資料で繰り返し示されている。
3. 425.30.34.20.01.001が担う位置
コレクションの中で、本機は装飾をもっとも削ぎ落とした一本にあたる。ダイヤモンドを用いず、ケースもブレスレットもスチールで、文字盤は黒一色である。スノーセッティングのベゼルやダイヤモンドインデックスを持つモデルが多いことは、レディマティックが宝飾時計としての性格を強く帯びていることを示している。本機はその宝飾を外したとき、波形のケースと渦巻く文字盤という骨格だけで成立するかを問う存在といえる。
同じ黒文字盤にダイヤモンドインデックスを加えた425.30.34.20.51.001、同じ文字盤をレザーストラップに載せた425.33.34.20.01.001は、本機を起点とした素材と装飾の変奏として読める。白マザー・オブ・パールの425.30.34.20.05.001は、同一構成の色違いとして対をなす。
4. 広がるコレクションの中で
2013年以降、レディマティックはバイカラーや多彩な文字盤色へと展開し、発表から3年足らずでオメガの主要な女性用ラインの一つになったと報じられた。色と宝飾の選択肢が増えるほど、無装飾の黒というこのRefの立ち位置はかえって明確になっている。
意匠分析
レディマティックの意匠の核は、ケースの側面にある。直径34mmのポリッシュ仕上げのスチールケースを、波形に切り抜いたスチールのリングが取り巻き、その切り欠きの奥からセラミック製のインナーケースがのぞく。セラミックの色は文字盤と連動し、白マザー・オブ・パール仕様には白、本機の黒文字盤には黒が合わせられる。本機では黒いセラミックが波の隙間を埋めるため、側面から見ると磨かれた金属と黒が交互に現れる。正面からは端正な丸型に見え、手首を傾けたときに構造が姿を現す設計である。
文字盤は黒ラッカー仕上げで、中心から渦を描いて広がる「スーパーノヴァ」パターンが施される。ダイヤモンドインデックスを持つ425.30.34.20.51.001と異なり、本機にはアワーマーカーが置かれない。WatchBaseもインデックスを「なし」と記録している。装飾は放射状の模様とロゴ、3時位置の日付窓に絞られ、時刻の読み取りはポリッシュ仕上げのアルファ針に委ねられる。時・分針には夜光が充填されている。
風防はドーム型のサファイアクリスタルで、両面に反射防止処理が施される。ドームの曲面は、ケースサイドの波や文字盤の渦と同じく、全体を曲線でまとめる意図の一部と読める。リュウズはねじ込み式である。ダイヤモンド仕様ではリュウズにもダイヤモンドがセットされるが、本機はオメガのロゴを浮き彫りにしたポリッシュ仕上げとなる。
ブレスレットは、オメガが特許を持つ3列構成のねじ留め式で、バタフライクラスプで留める。ケース寄りのコマは非対称の波形とされ、側面のモチーフをブレスレットへ引き継ぐ。ラグ端から端までは41.60mmとされ、34mm径に対してラグの張り出しを抑えたプロポーションである。
ムーブメントはオメガ自社製の自動巻きCal.8520である。コーアクシャル脱進機は、ジョージ・ダニエルズが考案した摩擦の少ない脱進機構で、注油への依存を減らす。これにシリコン製ヒゲゼンマイSi14を組み合わせ、衝撃や磁気などの外乱への耐性を高めている。振動数は毎時25,200振動(3.5Hz)で、パワーリザーブは50時間。サファイアのケースバックからは、アラベスク状のジュネーブウェーブ装飾を施したローターとブリッジが見える。
系譜と歴史
オメガがレディマティックの名を復活させたのは2010年10月29日である。北京のリッツ・カールトンで記者会見が開かれ、ブランドアンバサダーのニコール・キッドマンが登壇した。Worldtempusによれば、初期シリーズは38リファレンスで構成された。ケースはスチールと18Kイエロー/レッドゴールド、文字盤は白マザー・オブ・パールと黒ラッカーの2系統で、それぞれにダイヤモンドの有無が設定されたとされる。425.30.34.20.01.001は、この構成のうちスチールケース、スチールブレスレット、黒文字盤、ダイヤモンドなしの組み合わせにあたる。
ただしWatchBaseは本機の生産年を2013年と記録し、コレクション自体の再導入も2013年としている。後者は公式アーカイブの2010年と食い違う。本機の仕様は初期シリーズの構成と合致するが、2010年の発表時点で本Refが存在したことを個別の資料では確認できていない。
2013年、オメガはウィーンで新作レディマティックを披露した。スチールとゴールドのバイカラー、ピンクや淡いブルーの文字盤が加わり、同年のバーゼルワールドでも主要な展示となった。以後、スチールとブレスレットの系列だけでも、ダイヤモンドインデックスの425.30.34.20.55.002やピンクマザー・オブ・パールの425.30.34.20.57.001などへ派生が広がった。
本機と同じ黒文字盤を持つ兄弟機には、ダイヤモンドインデックスを備えた425.30.34.20.51.001、ベゼルにスノーセッティングを施した425.35.34.20.51.001、レザーストラップ仕様の425.33.34.20.01.001がある。
生産終了の正確な時期は確認できていない。
出典
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