婦人時計を機械として捉える
1950年代、紳士用腕時計には自動巻が広がりつつあった。日々のぜんまい巻きから解放する機構として、自動巻は実用上の意味を持っていた。一方で婦人用は、依然として装飾品の延長と見なされ、手巻の薄型機械を収めるのが通例であった。文字盤の意匠こそ凝るが、機構そのものに踏み込む例は少なかった。
オメガには、婦人用でも機能を重んじる下地があったとされる。その延長線上で、同社は婦人用に特化した自動巻の開発に着手する。
1955年に婦人時計を本格的な機械として鍛え、コーアクシャルで現代に蘇ったオメガ自動巻の系譜
レディマティックは、1955年にオメガが発表した婦人用自動巻の系譜である。婦人時計が装飾品として扱われがちだった時代に、当時オメガが作った中で最も小さな自動巻ムーブメントを搭載して登場した。クォーツ革命のなかで一度は途絶えるが、2010年にDe Villeコレクションの一員として復活する。コーアクシャル脱進機とシリコン製ひげぜんまいSi14を婦人用モデルに据え、中身を問う性格を受け継いだ。現行はマザーオブパール文字盤とダイヤを軸に、ステンレスや各種ゴールドで展開する。
1950年代、紳士用腕時計には自動巻が広がりつつあった。日々のぜんまい巻きから解放する機構として、自動巻は実用上の意味を持っていた。一方で婦人用は、依然として装飾品の延長と見なされ、手巻の薄型機械を収めるのが通例であった。文字盤の意匠こそ凝るが、機構そのものに踏み込む例は少なかった。
オメガには、婦人用でも機能を重んじる下地があったとされる。その延長線上で、同社は婦人用に特化した自動巻の開発に着手する。
初代に載ったのは、オメガがそれまでに作った中で最も小さな自動巻ムーブメントであった。Cal. 455系とされるこの機械の細かな仕様は、資料によって記述が揺れる。
1955年、この機械を収めて初代レディマティックが発表された。名はLadyとautomaticの合成で、婦人用の自動巻という核を一語で言い表す。金無垢や金張りの小ぶりなケース、ドットやバーインデックスの簡潔な文字盤。意匠は時代相応だが、中身は当時の最先端であった。発売は大きな反響を呼んだとされ、1960年代から1970年代にかけてCal. 660系などの後継機を得ながら、複数の婦人用モデルへと枝を広げた。
1970年代から1980年代、石英革命が機械式時計全体を揺さぶった。とりわけ婦人用では、薄く正確なクォーツが急速に主流となる。機械式の婦人時計が後退するなかで、レディマティックの名も一度は表舞台から退いた。
ただし、機械として婦人時計を仕立てるという発想までが消えたわけではない。オメガ本社の博物館には初代の個体が残され、その思想は次の転機を待つことになる。
2010年、オメガはレディマティックの名をDe Villeコレクションの一員として復活させた。中核に据えたのはCal. 8520および上位仕上げのCal. 8521。摩擦を抑えるコーアクシャル脱進機と、耐磁・耐衝撃に優れるシリコン製ひげぜんまいSi14を組み合わせた自動巻である。オメガはこれを、男性用を縮めたのではない女性専用の機械式ラインとして打ち出した。Worldtempusによれば、開発は2008年のバーゼル直後に始まった。Cal. 8520の発表を受け、このコーアクシャルを収める女性用ラインを急ぐよう求められたという。名はアーカイブから選ばれ、1955年に始まった系譜の呼称が採られた。全モデルが34mm径で、直径20mmのCal. 8520/8521を載せる。
毎時25,200振動 (3.5Hz)、約50時間のパワーリザーブを備え、COSCクロノメーター認定を受ける。100m防水のケースは径34mm、両面無反射のサファイアクリスタルを備える。初代がDe Ville以前の独立した婦人時計だったのに対し、復活版はDe Villeの傘下に置かれた。中身を問うという初代の性格が、半世紀を経て現代の機構で語り直された。
「レディマティック」という語は、1955年当時の空気をまとう。復活に際し、当時の社長スティーブン・アークハートは、機械の質に関心を寄せる女性客に向けたラインだと語っている。広告塔には、2004年からオメガと歩むニコール・キッドマンが起用された。
レディマティックは、ステンレス、レッドゴールド、イエローゴールド、Sednaゴールド、二色仕上げで展開されてきた。マザーオブパールの文字盤に放射状のスーパーノヴァ模様を刻み、ベゼルやインデックスにダイヤを配する個体も多い。ムーブメントは長く2010年世代のCal. 8520系が担ってきた。機械として婦人時計を仕立てるという、初代以来の一貫した主張がここにある。
レディマティックの設計言語は、婦人時計の華やかさと、機械としての実体とを同じ一本に同居させる点にある。装飾を施しながらも、中身が本格的な自動巻であることを隠さない。むしろ見せる方向に振る。
機能設計の核は、女性向けの小型ケースに本格機械を収めるという一貫した課題への解答である。初代はCal. 455という極小自動巻でこれに応え、2010年世代はコーアクシャルとSi14でクロノメーター級の安定を確保した。透明なシースルーバックから機械を見せる構成も、中身を問う性格を意匠で示す手法である。
意匠言語としては、放射状のスーパーノヴァ文字盤、マザーオブパールの濡れたような光沢、ダイヤのインデックスやスノーセットのベゼルが軸となる。装飾を多用しながらも、針には夜光を備え、視認性は確保される。ケース側面では波形の金属リングの奥にセラミック製のインナーケースがのぞき、外装の輝きと質感の対比を生む。2010年世代は全モデルが34mm径で統一された。この径は、装飾を生かしつつ直径20mmの自動巻を無理なく収める寸法である。
55年の空白を挟んでも一貫したのは、婦人時計を本物の機械として仕立てるという前提であった。変わったのは、ケースの寸法と素材、そして装飾の度合いである。初代の小ぶりなケースは現代版で34mmへと拡大し、金張りやステンレスは各種ゴールドや二色仕上げへと広がった。同時代の薄型手巻による婦人時計や、外装の宝飾性を主役に置く時計と比べると、レディマティックはムーブメントの存在を前面に出す姿勢で輪郭を描いてきた。華やかさと機械の実体は対立せず、両立しうる。その立場の表明として、名そのものが設計思想を語っている。
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