Conquest Classic
1954年のコンクエストの名を継ぎ、コラムホイール・クロノを核に据えたロンジンのドレススポーツの系譜
コンクエスト・クラシックは、ロンジンが2010年代初頭に整えた、コンクエスト一族のなかで端正さに軸足を置くドレススポーツの系譜である。1954年に商標登録された初代コンクエストの名と意匠を継ぎ、磨き上げたベゼルと視認性の高い文字盤で、スーツにもカジュアルにもなじむ一本を目指した。2013年に投入された自社専用のコラムホイール・クロノグラフ Cal. L688 を技術的な核とし、2015年にはムーンフェイズも加わる。クロノグラフは2018年に生産を終え、現在は初代の面影を宿す三針モデルが中核を担う。
Conquest Classic(コンクエスト・クラシック)、これまでの軌跡
コラムホイール・クロノグラフという核
コンクエスト・クラシックの輪郭をはっきりさせたのは、1本のクロノグラフだった。2013年のバーゼルワールドで、ロンジンは三針モデルを刷新すると同時に、新しいクロノグラフを投入する。心臓部は Cal. L688.2。ETA の Valgranges A08.L01 を基にしながら、ロンジン専用に開発されたコラムホイール式の自動巻きである。
コラムホイールは、クロノグラフの始動・停止・復帰を司る歯車で、カム式より製造に手間がかかる。押しボタンの感触が滑らかになる一方、量産には不向きとされてきた機構である。ロンジンはこれを「変わりゆく需要に応える」ものと説明した。同社は19世紀末から競技計時用のクロノグラフを手がけ、1913年の 13.33Z など、コラムホイールを用いた機械式の系譜を持つ。L688 は、その歴史を現代の量産価格帯に引き寄せる試みだったと位置づけられる。毎時28,800振動 (4Hz)、54時間のパワーリザーブを備えた。
月を載せる
2015年、コレクションにムーンフェイズが加わる。Cal. L678.2 は ETA の Valjoux 7751 を基にした自動巻きクロノグラフで、曜日・日付・月のフルカレンダーと月齢表示、24時間計を備える。42mmのケースに多くの情報を盛り込みながら、文字盤の構成は整理されていた。
ロンジンは長く馬術をはじめとする競技の計時に関わってきたブランドであり、この複雑機構を備えたモデルも、そうした世界の傍らで身につけられることを想定して語られた。クロノグラフが時間を測る道具であるなら、ムーンフェイズは時間を眺める装置である。実用に徹してきたコレクションに、観賞の要素が一つ加わった。
クロノグラフの終わりと三針への回帰
コラムホイール・クロノグラフの生産は、2018年末に終了した。コレクションの技術的な核が静かに退いた格好だが、その後のコンクエスト・クラシックは別の方向へ進む。
2019年前後、三針モデルが刷新された。細いバトンインデックスと植字のライン、すっきりとした文字盤は、1954年の初代の面影を意識したものだった。クロノグラフが担っていた「機械の見せ場」から、初代が持っていた「日常の端正さ」へと、重心が移ったとも読める。サイズは29.5mmから40mmまで揃い、クォーツと自動巻きの双方が用意された。複雑さより、毎日身につけられる素直さを選んだ世代である。
コンクエスト一族の再編のなかで
2024年、コンクエストのコレクションは商標登録70周年を迎え、大きく刷新された。1959年のパワーリザーブ表示を復刻したコンクエスト・ヘリテージや、新しいクロノグラフが登場し、系統全体が再編されている。そのなかでコンクエスト・クラシックは、より端正な路線を担う系列として残った。ロンジンの公式サイトでは、エレガンスの区分にも併載されている。
現行の自動巻きにはシリコン製ひげぜんまいが採用され、64時間以上のパワーリザーブを備える。耐磁性や温度変化への強さは、初代が掲げた実用性の現代的な延長と言える。コンクエスト・クラシックは、派手な複雑機構を競う系列ではない。1954年に始まった「端正で実用的」という性格を、コンクエストという大きな家族のなかで保ち続ける役回りにある。
意匠を貫く設計言語
コンクエスト・クラシックの設計を貫く言葉は、「スポーティと端正の両立」である。ドレスウォッチの薄さと整理された文字盤を保ちながら、スポーツウォッチの視認性と堅牢さを取り込む。この二つの要求の間で均衡を取ることが、シリーズの一貫した方針だった。
ケースとベゼルは磨き上げられ、回転ベゼルを持たない。これはコンクエスト・クラシックがダイバーズではないことの宣言でもある。同じコンクエスト一族でも、ハイドロコンクエストは逆回転防止ベゼルと300m防水を備えた道具であり、クラシックは50m(5気圧)防水で、シャツの袖口に収まる薄さを優先する。一方で、より素朴な現行コンクエストよりは装いが整っている。同じ系統の中で、役割をはっきり分けている。
文字盤は視認性を最優先する。植字のインデックス、夜光を仕込んだ剣型やバトン型の針、コントラストの効いた地色。クロノグラフ世代では縦縞のテクスチャーが採用され、装飾性と視認性を両立させた。日付は三針で3時位置、クロノグラフで4時と5時の間に置かれ、対称性を大きく崩さない範囲に抑えられている。針の中央に配されたロンジンの翼のあるロゴも、世代を越えてほとんど変わらない。
意匠で変えなかったものは、初代コンクエストが持っていた節度である。色数を絞り、装飾を足しすぎず、サイズも29.5mmから42mmの常識的な範囲に収める。1954年の時計が放っていた「主張しすぎない端正さ」を、現代の量産技術で再現する。この自制こそが、コラムホイール・クロノからムーンフェイズ、三針への回帰という変転を経ても、コレクションの顔が崩れなかった理由だと言える。変えるべき機構は更新し、保つべき佇まいは保つ。その線引きの一貫性が、コンクエスト・クラシックの設計思想の中身である。