「1000時間」という名のシリーズ
1992年、ジャガー・ルクルトは新しいコレクション、マスター・コントロールを発表した。最初の一本は、銀色の文字盤に時分秒と日付だけを備えた三針時計である。リファレンスは140.8.89、ケース径37mm。当時としては大きく、社内では「グランドターユ(大型)」と呼ばれた。搭載されたのは1980年代に登場した薄型自動巻、Cal. 889。一見すると、ごく普通のドレスウォッチに映る。
このコレクションの新しさは、文字盤の意匠ではなく、裏蓋に刻まれた一文にあった。「Master Control - 1000 hours」。完成した時計を1000時間にわたり検査する、社内基準の名である。シリーズ名はこの検査からそのまま採られた。仕様の目新しさを競うのではなく、品質そのものを商品の核に据える。クォーツ危機を経た時計界において、それは一つの姿勢の表明だった。
意匠の手本は、1950年代の自社作にある。巻き上げ用リューズを持たない自動巻のフュチュアマティック、防磁・耐衝撃のジオフィジック、目覚まし機構のメモボックス。これらが備えていた丸いケースと抑えた文字盤を、マスターは現代へ引き継いだ。