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H. MOSER & CIE · SERIES

Heritage

ヘリテージ

懐中時計を腕に移した1920年代を下敷きに、挑発で知られる工房が見せる最も古典的な貌

42 mm
01 — 概要 / SUMMARY

Heritage (ヘリテージ) は、2018年にH. Moser & Cie.が打ち出した、懐中時計から腕時計への過渡期を主題とするコレクションである。1920年代、懐中時計にラグを溶接して腕に着けた道具を下敷きに、円いケースとワイヤーラグ、大ぶりの数字という古典の語彙を、フュメ文字盤と発光素材Globolight、自社キャリバーで現代へ翻案する。現在はCentre Seconds、Tourbillon、Perpetual Calendar、Dual Timeの4機構を擁し、キリル文字ロゴの限定作にはブランドのロシア時代の記憶も刻まれる。

02 — STORY · 物語

Heritage(ヘリテージ)、これまでの軌跡

The story of this series
01

モダンを掲げた工房が、過去を見つめ直すまで

H. Moser & Cie.の現代史は、1828年の創業よりも2005年の再出発から語られることが多い。シャフハウゼンに新工房を構えて復活したこの小さなマニュファクチュールは、年産数千本という規模ながら、業界の常識に挑む姿勢で知られてきた。2013年にエドゥアール・メイランが経営を引き継いで以降、Apple Watchを揶揄したSwiss Alp Watchや、ケースにスイスチーズを用いたSwiss Mad Watchなど、挑発的なコンセプトピースを次々と世に問うてきた。フュメ文字盤と、時にロゴすら省く極端なミニマリズム。それがモーザーの顔だった。

だからこそ、懐中時計を思わせる古典的な腕時計を出すという選択は、このブランドにとって意外な一手だった。前を向いて走ってきた工房が、自らの来歴へ視線を戻す。Heritageは、その問いから生まれたコレクションである。

02

2016年、懐中時計そのものを腕に巻く

「Heritage」の名が最初に現れたのは2016年、SIHHで発表されたPerpetual Calendar Heritage Limited Edition (Ref. 8341-0400) においてである。これはモーザーが2006年に世へ出した永久カレンダー機構の10周年を記念する一本だった。

19世紀末の自社懐中時計を下敷きに、46mmの5Nレッドゴールドケースへ両開きのカバーを設け、クロワゾネ・エナメルとギヨシェ、ダイヤモンドで装飾する。文字盤はグランフー・エナメル。手巻キャリバーHMC 341が、毎時18,000振動 (2.5Hz)、7日間のパワーリザーブで時を刻む。10本のみの限定であり、これは新コレクションの宣言ではなく、懐中時計の精緻な再現であり、工芸の祝祭だった。Heritageという言葉は、ここではまだ一点物の名にすぎない。

03

2018年、ビュッヘラーがもたらした転機

コレクションとしてのHeritageは、思いがけない経路で始まった。2018年、モーザーはルツェルンの名門リテーラー、ビュッヘラーのBlue Editions向けに2本の時計を用意する。その一方が、Heritage (Ref. 8200-1200) だった。

円いケース、細く伸びるワイヤーラグ、扁平なオニオン型リューズ、レイルウェイ・ミニッツトラックと大ぶりのアラビア数字。1920年代、懐中時計にラグを溶接して腕に着けた過渡期の道具を下敷きにした意匠である。SJXはこれを「まったく新しいラインの第一作」と評した。記念碑的な再現作だった2016年の一本とは異なり、ここで初めて、後に「Heritageの顔」となる設計言語が立ち上がった。搭載されたのは主力の自動巻HMC 200。高級路線のモーザーがスティールの実用時計を手がけた点でも、異例の一本だった。

04

定番コレクションへ — トゥールビヨンと三針

翌2019年、Heritageは特別版を離れて常設コレクションに加わる。先陣を切ったのはHeritage Tourbillon Funky Blue (Ref. 8804-1200) だった。6時位置にフライングトゥールビヨンを収め、二重ひげぜんまいと交換可能な調速モジュールを備えた自動巻HMC 804を積む。ケースはビュッヘラー版と同じ42mmのスティールである。

同年末には、より素直な三針のHeritage Centre Seconds Funky Blue (Ref. 8200-1201) が続いた。ビュッヘラー版の控えめなグレー文字盤に代わり、モーザー伝統のフュメ・ブルーをまとう。この一本によって、Heritageはようやく「モーザーらしい」貌を得たといえる。

05

複雑機構の年と、ブロンズに宿るロシアの記憶

2021年はHeritageが一気に広がった年である。7月、永久カレンダーがこの古典的なケースへ移植された。Heritage Perpetual Calendar Midnight Blue Enamel (Ref. 8800-0203) は、HMC 341を改良した手巻HMC 800を積む。ミッドナイトブルーのグランフー・エナメル文字盤、20本限定。10月にはデュアルタイムが加わる。Heritage Dual Time Burgundy (Ref. 8809-1200) は、HMC 200にモーザー自社開発の第二時間帯モジュールを重ねたHMC 809を搭載し、使わないときは第二時針を時針の影に隠せる。

そして11月、ドバイ・ウォッチ・ウィークでHeritage Bronze「Since 1828」(Ref. 8200-1701) が披露された。モーザー初のブロンズケースに、キリル文字のロゴ。創業者ハインリヒ・モーザーがサンクトペテルブルクで財を成し、革命前のロシアを最大の市場とした史実への目配せである。Heritageという名が、懐中時計の意匠だけでなく、ブランド自身の来歴を指す言葉でもあることを、この50本限定は静かに告げていた。

06

現在のHeritage — モーザーの「伝統」の極

センターセコンド、トゥールビヨン、永久カレンダー、デュアルタイム。Heritageは今、4つの複雑機構を擁する一群として、モーザーの現行ラインの中で「伝統」を担う一角を占める。Streamlinerの現代的なスポーツ性、Endeavourの簡潔な端正さとは対照的に、Heritageは古典の語彙であえて語る。挑発と諧謔で知られる工房が、最も真面目な顔を見せる場所。それがこのコレクションの現在地である。

03 — DESIGN · 設計思想

意匠を貫く設計言語

What this series guards, and what it lets change

Heritageの設計思想は、一つの逆説の上に成り立っている。出発点は「懐中時計を腕に移した1920年代の道具」という、モーザーにとってはむしろ縁遠い古典の語彙である。それを、フュメ文字盤やGlobolight、自社キャリバーという現代の手法で語り直す。古い器に新しい中身を盛る——その緊張がこのコレクションの核にある。

変わらないのは、ケースと文字盤の骨格である。ベゼルで縁取らない円いケース、細く短いワイヤーラグ、扁平なオニオン型リューズ。直径42mmと数字の上では大きいが、ラグが短く下方へ湾曲するため、実際の装着感は見た目ほど大柄ではない。文字盤は大ぶりのアラビア数字、外周のレイルウェイ・ミニッツトラック、剣形の針、そして12時下のロゴ。航空時計や軍用時計を思わせるこの構成は、どの複雑機構をまとっても揺らがない。だからトゥールビヨンも永久カレンダーも、ひと目でHeritageと分かる。

モーザーらしさは、細部の選択に宿る。数字はGlobolight——セラミックにスーパールミノバを練り込んだ立体的な発光素材で、昼は白く、夜に光る。文字盤はグラデーションのかかったフュメで奥行きを与え、装飾過多に陥らない。同時代のパイロットウォッチが好む大ぶりのカテドラル針を、モーザーはあえて素直な剣形に整える。派手にしないという判断が、色や装飾、サイズの随所に効いている。

輪郭は、競合との対比でいっそう明らかになる。IWCのビッグ・パイロットやブレゲのType 20が機能の威容を前面に出すのに対し、Heritageは同じ航空時計の語彙を、フュメとミニマリズムで内省的に組み替える。声高に主張するのではなく、静かに古典を引き受ける。70年前の道具の記憶を借りながら、なお現代のモーザーの一本として成立させる——それがこのコレクションの設計言語である。

04 — MOVEMENT EVOLUTION

ムーブメントの変遷

Calibers across the decades
2016
Cal. HMC 341
手巻7日巻き、永久カレンダーの基幹キャリバー。
2018-
Cal. HMC 200
自動巻3日巻き、フリースプラング搭載の主力機。
2019
Cal. HMC 804
自動巻フライングトゥールビヨン、二重ひげぜんまい。
2021
Cal. HMC 800
HMC 341を改良、組立工程を大幅に短縮した7日巻き。
2021
Cal. HMC 809
HMC 200にデュアルタイム機構を統合した自動巻。
05 — REFERENCE EVOLUTION

Ref. 変遷

Reference generations
2016

永久カレンダー記念モデル

8341-0400
懐中時計を直接再現した限定作。Heritageの名の初出。
2018

ビュッヘラー・ブルー版

8200-1200
現行Heritageの意匠言語が確立した起点。自動巻HMC 200を搭載。
2019

定番コレクションへ昇格

8804-1200 8200-1201
トゥールビヨンと三針が常設ラインに加わる。
2021

複雑機構ラインの拡張

8800-0203 8809-1200
永久カレンダーとデュアルタイムを相次いで追加。
2021

初のブロンズケース採用

8200-1701
初のブロンズケースとキリル文字ロゴ。ロシア時代へ目配せ。
06 — ALL REFERENCES

このシリーズの全 2 モデル

2 references in archive