モダンを掲げた工房が、過去を見つめ直すまで
H. Moser & Cie.の現代史は、1828年の創業よりも2005年の再出発から語られることが多い。シャフハウゼンに新工房を構えて復活したこの小さなマニュファクチュールは、年産数千本という規模ながら、業界の常識に挑む姿勢で知られてきた。2013年にエドゥアール・メイランが経営を引き継いで以降、Apple Watchを揶揄したSwiss Alp Watchや、ケースにスイスチーズを用いたSwiss Mad Watchなど、挑発的なコンセプトピースを次々と世に問うてきた。フュメ文字盤と、時にロゴすら省く極端なミニマリズム。それがモーザーの顔だった。
だからこそ、懐中時計を思わせる古典的な腕時計を出すという選択は、このブランドにとって意外な一手だった。前を向いて走ってきた工房が、自らの来歴へ視線を戻す。Heritageは、その問いから生まれたコレクションである。