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腕時計史 · MILESTONE — 第0章 前史
1770s

自動巻懐中の祖(ペルレ)

時計を巻くのは人の手ではなく人の歩み——ペルレが18世紀後半に試みた発想は、後の自動巻腕時計の遠い源流となった。

§ 00 Overview

18世紀後半、スイス・ル・ロックルの時計師アブラアン=ルイ・ペルレが、歩行の振動でゼンマイを巻き上げる懐中時計を考案したと伝わる。ジュネーブの芸術協会は1777年に、15分歩けば8日分のゼンマイが巻けると報告した。当時の懐中時計は鍵で毎日巻く必要があり、巻き忘れれば止まった。ペルレは着用者の動きそのものを動力に変える発想を持ち込んだ。もっとも、その正確な機構は記録に残らず、発明の帰属には諸説がある。同じ頃に中央ローターの図面を残したユベール・サルトン、これを買い改良したブレゲの名も挙がる。歩く人の懐中時計から、腕の動きで巻く腕時計へ——自動巻の系譜はここに始まる。

§ 01 Background

18世紀の懐中時計は、すべて手で巻く時計だった。多くは専用の鍵を毎日差し込んでゼンマイを巻き、巻き忘れれば時計は止まる。巻きすぎれば機構を傷める恐れもあった。携帯時計は鎖でつなぎ、上着やベストのポケットに収めて持ち歩く。所有者とともに絶えず揺れ動くその性質を、ゼンマイの巻き上げに使えないかという発想が生まれる素地はあった。

当時の時計学が追ったのは精度だけではない。止まらない時計、永久に動き続ける時計への憧れも強かった。後にこの種の時計が永久を意味する語で呼ばれたことが、その関心を物語る。

アブラアン=ルイ・ペルレは1728年、ヌーシャテル公国のル・ロックルに生まれた。ジュラ山中に位置する時計づくりの町である。短い修業ののち独立し、自らの工房で新しい仕組みを試した。時計のほか、製作の難しい工具でも名を知られた職人である。既存の枠にとらわれず仕組みを工夫する気質が、自動巻という難題へ向かわせたと伝わる。

§ 02 The Event

1770年代後半、ペルレは歩行の振動で巻き上がる懐中時計を作ったとされる。通常より大きな時計の内部に錘を収め、所有者が歩くたびに錘が動いてゼンマイを巻く。針合わせはなお手で行う必要があったが、巻き上げは身体の動きが担った。

この時計を伝えるのは、ジュネーブの芸術協会の記録である。協会は1777年に、15分ほど歩けば8日分のゼンマイが巻けると報告した。翌1778年には、この時計がよく売れていると伝えている。ただし当時の報告は、巻き上げ機構の具体的な構造には触れていない。

そのため、ペルレの時計が正確にどんな仕組みだったかは確かめられない。後年の証拠からは、ムーブメントの側面で旋回する錘だった可能性が指摘される。中央で360度回るローター式とは別の形だったとみられる。

発明の帰属にも諸説がある。リエージュの時計師ユベール・サルトンは、1778年に中央ローター式の自動巻機構を考案し、その図面と記述をパリの科学アカデミーに提示した。これは文書として明確に残る早い記録であり、サルトンを発明者とみる立場もある。ペルレもサルトンも、仕事を物理的に裏づける時計を残していない。

パリのアブラアン=ルイ・ブレゲも、1777年頃から自動巻に関心を寄せた。1780年頃にはペルレから時計を買い、自らの設計で改良している。ブレゲはこれを永久を意味するペルペチュエルと名づけ、弧を描いて揺れる錘を用いた。自動巻懐中時計がフランス市場に並んだのは1780年頃と伝わる。

§ 03 Significance

この発明の核心は、動力源の発想を反転させた点にある。時計を外から巻くのではなく、着用者の運動そのものを動力に変える。動力の自給という考え方は、以後の自動巻機構すべての出発点となった。

もっとも、18世紀の自動巻懐中時計は複雑で高価であり、広くは普及しなかった。ブレゲのペルペチュエルも、作られた数は限られていた。歩行という限られた動きでは巻き上げの効率も高くなく、過巻きを防ぐ工夫も要った。やがて手巻きが主流に戻り、自動巻はおよそ150年のあいだ目立たぬ存在となる。

機構の形も受け継がれた。ペルレの側面錘、サルトンが図面に残した中央ローター、ブレゲの揺れる錘。このうちサルトンの中央ローターは、全回転する錘という点で現代の自動巻に最も近い。1920年代のハーウッドによる揺動錘式、1931年のロレックスによる360度ローターへと、巻き上げ機構の系譜は続いていく。

この機構が本領を発揮するのは、腕時計の時代である。腕は歩行よりはるかに多く動くため、巻き上げの効率が格段に上がる。止まらない時計という18世紀の夢は、懐中時計では十分に叶わなかった。歩く人のために構想されたこの仕組みは、自動巻という長い系譜の最初の一点に置かれる。

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