SMA03-T
一体型マイクロローターで薄型化した、Speake-Marinの自社製自動巻。1時30分の偏心スモールセコンドが個性
SMA03-Tは、独立系ブランドSpeake-Marinの自社製自動巻きキャリバーである。ムーブメント工房Le Cercle des HorlogersのCH200を基盤とし、完全一体型のマイクロローターにより厚さ3.9mmへ収める。振動数は28,800vph (4Hz)、パワーリザーブは52時間、31石。スモールセコンドを1時30分へ配する独特のレイアウトと、型番末尾の「T」が示すTradition(伝統的高級仕上げ)を特徴とする。2022年発表のスポーツウォッチRipplesに初搭載された。
| Maker | Speake-Marin |
|---|---|
| Reference | SMA03-T |
| Type | Automatic |
| Display | Analog |
| Frequency | 28,800 bph (4 Hz) |
| Jewels | 31 石 |
| Power reserve | 52 h |
| Movement ⌀ | 30 mm |
| Hands | Hours, Minutes, Small Seconds |
系譜と歴史
自社製ムーブメントへの道
Speake-Marinは2002年、英国出身の時計師Peter Speake-Marin(ピーター・スピーク・マリン)がスイスで創業したブランドである。創業者は2017年に離脱し、現在はChristelle Rosnoblet(クリステル・ロノブレ)を中心とするロノブレ家が所有する。ロノブレは2012年に経営へ加わると、ムーブメントの内製化を方針の軸に据えた。2014年にはムーブメント開発工房Le Cercle des Horlogers(ル・セルクル・デ・オルロジェ)へ出資し、2015年に自社製ムーブメント戦略を始動する。2020年には同工房の筆頭株主となり、SMA系キャリバーの開発・組立・管理を自社の管理下に置く体制を整えた。SMA03-Tが「自社製」と称される根拠は、この垂直統合にある。
CH200アーキテクチャ
SMA03-Tのベースは、Le Cercle des HorlogersのCH200.CHSAである。同工房は2012年、Nicolas Herren(ニコラ・エラン)とAlain Schiesser(アラン・シーサー)が設立した。シーサーはChristophe Claretで複雑機構の設計を、エランはオーデマ ピゲやLouis VuittonのLa Fabrique du Tempsでトゥールビヨン等の製作を手がけた経歴を持つ。CH200のマイクロローター・アーキテクチャは、Louis Vuitton タンブール(Cal. LFT023)やAltoのArt 01(Cal. A01)など、複数の独立系ブランドの基盤としても展開されている。各社が独自の仕上げと意匠を加える設計思想であり、SMA03-TはSpeake-Marinの様式に沿って構成される。
SMA03ファミリーと「Tradition」
SMA系は段階的に展開した。閉じた文字盤のAcademic系に載るSMA03を起点に、文字盤を開放(オープンワーク)化し高級仕上げを加えた派生がSMA03-Tである。末尾の「T」はTraditionを意味し、ロジウムめっきや手作業の内角仕上げといった伝統的装飾を施した版を指す。SMA03-Tが初搭載されたのは、2022年のWatches and Wondersで発表されたRipplesである。一体型ブレスレットを備えるスポーツウォッチで、ブランドの新機軸となった。ファミリーにはブランド20周年記念のSMA03-T20、6時位置へ大型日付窓を加えたSMA03-TDがあり、上位にはフライングトゥールビヨンを1時30分へ据えたSMA05系が連なる。
技術解説
SMA03-Tは、直径30mm、厚さ3.9mmの自動巻きムーブメントである。30mmという径は近年の自動巻きとしては大ぶりで、ケース径40mm級のRipplesの文字盤裏を広く満たす設計となる。
薄さ3.9mmを支えるのが、完全一体型のマイクロローターである。マイクロローターとは、回転錘(ローター)をムーブメントの厚みの中に埋め込み、地板と同一平面上で回す自動巻機構を指す。中央へ大型ローターを置く一般的な方式と異なり、ムーブメント全体を覆い隠さないため、輪列や香箱の眺めが損なわれない。完全一体型(フルインテグレーテッド)とは、その錘を輪郭の内側へ完全に収め、上面や外周へはみ出させない構造を指す。裏蓋のサファイアクリスタル越しに見える機構が錘に遮られず、4枚ブリッジの構成がそのまま観賞対象となる。SMA03-Tのローターにはタングステンが用いられる。比重の高い金属を錘に使うことで、小径でも巻き上げ効率を確保する狙いである。
調速はテンプ(往復回転する円板状の振動体)が担い、振動数は28,800vph (4Hz)である。1秒間に8回振動する現代的な高振動で、姿勢差や外乱の影響を抑えやすい。香箱(ぜんまいを収める円筒)1個から得られるパワーリザーブは52時間。香箱から二番車・三番車・四番車へと続く輪列を経て、1時30分のスモールセコンド(小さな秒針)へ伝達される構成である。この偏心配置はSpeake-Marinが踏襲してきたレイアウトで、秒表示をこの角度へ通すことが輪列設計上の制約にもなる。
仕上げは、型番の「T」が示すTraditionの名にふさわしい水準にある。4枚のブリッジ(歯車を支える橋板)にはコートドジュネーブ(平行の筋目模様)が施され、稜線は手作業で面取りされる。内角(インナーアングル)の処理やジュエルシンク(石を受ける座ぐり)、ロジウムめっきなど、機械研磨では再現しにくい手仕上げが随所に入る。石数は31石、構成部品は147点を数える。
公称精度は日差±5秒前後とされる。ただし第三者認定機関によるクロノメーター認定を受けたムーブメントではなく、Speake-Marin自社基準での調整値である点は区別しておきたい。脱進機はスイス式アンクル(レバー式)に拠り、シリコン部品や特殊な耐磁構造を前面に押し出す設計ではない。素材や認定よりも、薄型化と手仕上げ、そして機構を露わにする観賞性に主眼を置いた構成といえる。クロノグラフやGMTなどの追加機構は持たず、時・分・スモールセコンドの三針へ機能を絞る。複雑機構を備えないぶん、保守の手順は標準的な自動巻きの範疇に収まる。