03 — EDITORIAL
系譜と歴史
Genealogy & history
1. ヒゲゼンマイを自ら作る
H.モーザー&シーの機械を語るうえで欠かせないのが、姉妹会社プレシジョン・エンジニアリングの存在である。同社はテンプの振動周期を司るヒゲゼンマイを自ら作っており、SJXによれば、2枚の平ヒゲゼンマイを組み合わせる構成は、モーザーの最上位の機械にだけ与えられる特徴であった。
2. モジュール式の発想とトゥールビヨン
SJXは、モーザーが最初のトゥールビヨンのキャリバーを2014年に発表したと書いている。そのキャリバーと同じく、2017年のHMC 804もモジュール式で、トゥールビヨンを本体に組み込む前に単独で組み立てて調整する。整備のときには、トゥールビヨンの組立品ごと注油し直したモジュールと交換でき、整備を容易に速くする狙いがある。
一方で、HMC 804は2014年のキャリバーと違ってフライング・トゥールビヨンを採った。上側の受けを持たず片側だけで支える形式で、そのケージは、先代のトゥールビヨンの受けの形を受け継いでいる。
3. エンデバー・トゥールビヨン・コンセプト
HMC 804を最初に積んだエンデバー・トゥールビヨン・コンセプトは、SIHH 2018に向けて2017年12月に発表された。SJXによれば、モーザーの「コンセプト」の時計らしく、文字盤から目盛りもロゴも省き、葉の形をした2本の針と、6時位置のフライング・トゥールビヨンだけを、中央から縁に向けて暗くなる青のフュメ文字盤に置いた。ケースは直径42mmのホワイトゴールドで、凹んだベゼルと胴を持つモーザーらしい形をとる。20本の限定であった。
4. その後の展開
HMC 804は、パイオニア・トゥールビヨンの先行する版にも使われた。Monochromeによれば、2025年のパイオニア・トゥールビヨン・バーガンディに載るHMC 805は技術的にはHMC 804と同じで、新しいHMC 201と同じ意匠と仕上げを採り、受けを透かして機構をより多く見せる。2026年のエンデバー・トゥールビヨン・スケルトンには、HMC 804から派生したHMC 814が使われ、香箱を含むすべての部品が透かされた。
04 — MECHANISM
技術解説
Technical breakdown
HMC 804は、直径32mm、厚さ5.5mmの自動巻トゥールビヨンのキャリバーである。毎時21,600振動 (3Hz)で、パワーリザーブは3日間(72時間)に達する。巻き上げは18金レッドゴールドのローターによる両方向の巻き上げで、Monochromeは後継のHMC 805について、爪を使った両方向の巻き上げ機構と透かしたローターと説明している。
フライング・トゥールビヨン
6時位置のトゥールビヨンは、1分間に1回転する。テンプ(往復回転で時間を刻む調速車)と脱進機をケージごと回転させ、姿勢差による精度のばらつきを平均化する機構である。上側の受けを持たない、片側だけで支えるフライング形式を採り、文字盤の開口から回転を観察できる。ケージは、2014年の最初のトゥールビヨンのキャリバーで使われたトゥールビヨンの受けの形をしている。
ダブルヒゲゼンマイ
本機の大きな特徴が、2枚のヒゲゼンマイを組み合わせた構成である。SJXによれば、プレシジョン・エンジニアリングが自社で作る1組の平ヒゲゼンマイは、互いに逆の向きに働くよう配置され、同心性を高めて互いの偏りをならし、精度と等時性(振り角が変わっても周期が一定に保たれる性質)を改善する。ヒゲゼンマイは伸び縮みのたびに重心が偏り、姿勢ごとに精度が変わる。2枚を逆向きに重ねる構成は、この偏りを相殺する狙いを持つ。トゥールビヨンが重力の影響を回転で平均化するのに対し、ダブルヒゲゼンマイは誤差の発生源そのものを抑える。両者を合わせることで、重力への対処を二重に担わせている。
モジュール式のトゥールビヨン
トゥールビヨンの調速機はモジュールになっており、本体とは別に組み立て、調整される。整備のときにはユニットごと取り外し、注油と調整を済ませたモジュールと交換できる。Monochromeは、後継のHMC 805について、トゥールビヨンをプラグ・アンド・プレイの仕組みで機械から直接外せると書いている。
振動数とエネルギー
毎時21,600振動という比較的緩やかな振動数は、トゥールビヨンの消費エネルギーを抑え、3日間のパワーリザーブを確保するうえで有利な選択といえる。派生のHMC 814について、Monochromeは167部品・28石としており、同じ系統の機械の規模をうかがわせる。HMC 805は機構がHMC 804と同じまま受けを透かし、HMC 814はさらに香箱を含むすべての部品を透かしており、基本の構成を保ったまま見せ方を変える展開が続いている。