L.U.C 96.24-L
2019年、Chopard初の自動巻フライングトゥールビヨン。3.30mmの薄型基盤に複雑機構を載せた稀有な一作
L.U.C 96.24-Lは、Chopard Manufactureが2019年に発表した自動巻フライングトゥールビヨンキャリバーである。同社初のフライングトゥールビヨンであり、基幹機96.01-Lと同じ厚さ3.30mmに複雑機構を収めた。テンプは25,200vph (3.5Hz)で動き、25石を備える。動力源は22金製のマイクロローターで、上下2段の香箱を用いるツイン・テクノロジーにより65時間のパワーリザーブを得る。COSCクロノメーター認定とジュネーブ・シールの双方を取得する。L.U.C Flying T Twinに初搭載された。
| Maker | Chopard |
|---|---|
| Reference | L.U.C 96.24-L |
| Type | Automatic |
| Display | Analog |
| Frequency | 25,200 bph (3.5 Hz) |
| Jewels | 25 石 |
| Power reserve | 65 h |
| Movement ⌀ | 27.4 mm |
| Hands | Hours, Minutes |
| Additional | Chronometer, Tourbillon Escapement |
系譜と歴史
マニュファクチュールの起点
Chopardが自社製ムーブメントの開発に着手したのは1993年頃とされる。共同社長のKarl-Friedrich Scheufeleが、外部供給に頼らない独立性を構想した。1996年、スイス・ヴァル・ド・トラヴェールのフルリエにChopard Manufactureを設立する。同地は18世紀から時計づくりで知られた土地である。翌1997年には、L.U.Cコレクションが発表された。L.U.Cの名は、創業者ルイ・ユリス・ショパールに由来する。
最初の自社製キャリバーが1.96、後の96.01-Lである。直径27.40mm・厚さ3.30mmの薄型自動巻で、マイクロローターとツイン・テクノロジーを備えた。L.U.C 1860に搭載され、1997年に「ウォッチ・オブ・ザ・イヤー」を受けた。開発初期には、独立時計師ミシェル・パルミジャーニが技術面で関与したと伝わる。この96.01-Lが、以後20年余にわたるL.U.C系すべての出発点となる。
薄型基盤の上に立つトゥールビヨン
L.U.C 96.24-Lは、2019年のバーゼルワールドで発表された。Chopard初の自動巻フライングトゥールビヨンである。注目すべきは、複雑機構を加えながら、基盤の96.01-Lと同じ3.30mmの薄さを保った点にある。マイクロローターとツイン・テクノロジーという、創業時からの構成を受け継ぐ。その上にフライングトゥールビヨンを載せ、薄型のまま完成させた。基幹キャリバーの素性を活かした、堅実な発展形といえる。
搭載第一号は、L.U.C Flying T Twin(Ref.161978-5001)である。倫理的に採掘されたフェアマインド・ローズゴールドのケースを用いた。直径40mm・厚さ7.20mmの薄型ドレスウォッチで、50本限定であった。
展開と到達点
Flying T Twinは、その後いくつかの派生を生んだ。ホワイトゴールド・ブルー仕様やプラチナ仕様が加わる。2021年には直径35mmの女性向けモデルが登場した。錘までダイヤモンドを留めた仕様もある。2024年には、フェニックスを手彫りしたFlying T Twin Phoenixが発表された。
機構面の到達点が、2024年のL.U.C Flying T Twin Perpetualである。搭載するキャリバー96.36-Lは、96.24-Lの設計を基に永久暦を加えた。部品数は319点に達し、厚さは6mmとなる。フライングトゥールビヨンの軽さと、永久暦の歯車列を一つの薄型機にまとめた。96.24-Lが拓いた自動巻トゥールビヨンの系譜は、こうして複雑時計へと広がった。
マイクロローター式トゥールビヨンの位置
超薄型の自動巻でフライングトゥールビヨンを成立させた例は、業界でも多くない。マイクロローターによる薄型化を長く手がけてきたChopardの蓄積が、これを支えた。トゥールビヨンを誇示する設計ではなく、ドレスウォッチの薄さと佇まいを優先する。技術を前面に出しすぎない姿勢は、L.U.C系の一貫した設計思想を映している。
技術解説
超薄型を支えるマイクロローター
L.U.C 96.24-Lの設計は、直径27.40mm・厚さ3.30mmという薄さに集約される。この寸法は、ブランド初の自社製キャリバー96.01-Lと同一である。フライングトゥールビヨンを内蔵しながら、なお基幹機の薄さを維持した点に技術的核心がある。
薄型を可能にするのが、自動巻の動力源であるマイクロローターである。一般的な自動巻は、地板の上に半円形のローターを重ねる。これに対しマイクロローターは、輪列と同じ高さに小さな錘を埋め込む。錘がブリッジの面と揃うため、ムーブメント全体の厚みを抑えられる。半面、小さな錘で香箱(ぜんまいを収める部品)を巻き上げるには、十分な慣性モーメントの確保が課題となる。Chopardはボールベアリング軸受と22金製の錘を組み合わせ、双方向巻き上げでこれを解決した。22金は密度が高く、限られた体積で大きな慣性を得られる。
ツイン・テクノロジーと巻き上げ機構
香箱は2つで、上下に重ねて配置する。Chopardが「ツイン・テクノロジー」と呼ぶこの構成は、同社の特許とされる。2番目の香箱がトルクを補い、65時間のパワーリザーブを生む。1つの香箱より放出トルクが安定し、脱進機へ届く力のばらつきが小さくなる利点もある。薄さと長時間駆動を両立させる、L.U.C系に共通する設計である。
3.5Hzのテンプと可変慣性調整
調速の中心は、往復運動する調速車であるテンプである。本機のテンプは25,200vph (3.5Hz)で動く。毎時25,200回の振動は、テンプが1秒間に3.5回往復することを意味する。L.U.C 96系には4Hz仕様もあるが、本機はやや低い3.5Hzを採る。トゥールビヨン機構が加わる分、脱進機(動力を一定間隔で逃がす機構)の負荷は増す。振動数を抑え、限られた動力を効率よく配分する狙いがあると考えられる。
調速にはテンプ側で慣性を変える可変慣性テンプを用いる。一般的な緩急針式は、ヒゲゼンマイの有効長を変えて速度を調整する。可変慣性式は、ヒゲの長さを固定したまま、テンプ外周の慣性錘を動かして速度を変える。有効長が一定なので等時性に優れ、衝撃を受けても調整が狂いにくい。ヒゲゼンマイは終端が平らな平ヒゲを備える。
フライングトゥールビヨンと秒停止
本機最大の特徴は、Chopard初の自動巻フライングトゥールビヨンである。トゥールビヨンは、脱進機とテンプをかご(キャリッジ)に収め、1分で1回転させる機構である。姿勢差による精度のばらつきを平均化する。フライング式は上側のブリッジを持たず、かごを下から片持ちで支える。視覚的な軽さと薄さに寄与する。文字盤6時位置の開口部で、かごの回転が見える。かごには白い三角の指標が付き、スモールセコンドを兼ねる。
トゥールビヨンには珍しく、秒停止(ハック)機構を備える。リューズを引くと、かごの回転が止まる。正確な秒合わせを求めるKarl-Friedrich Scheufeleの意向によるとされる。仕上げは、ブリッジのコートドジュネーブ、地板のペルラージュなど装飾も周到である。本機はCOSCクロノメーター認定と、ジュネーブ・シール(ポワンソン・ド・ジュネーブ)の双方を取得する。フライングトゥールビヨンで両認定を併せ持つ例は少ない。