系譜と歴史
鳴り物の系譜とデュフォーの委嘱
打鈴時計はオーデマ ピゲの古い得意分野である。19世紀以来、同社は懐中時計でミニッツリピーターやソヌリを手がけてきた。現代へ連なる転機は1980年代にある。独立時計師フィリップ・デュフォーが、オーデマ ピゲの委嘱でグランドソヌリの懐中時計用ムーブメントを5点製作した。これが休眠していた複雑機構への関心を呼び戻す契機となったと伝わる。デュフォーはその後独立し、1992年に腕時計用のグランド/プティ・ソヌリを世に問う。この機構を腕時計で実現した最初の例とされる。
自社プログラムの始動
オーデマ ピゲ自身も腕時計化を進めた。1994年、同社はクォーターリピーター付きのグランド/プティ・ソヌリ腕時計を発表する(Ref. 25750BA・25847BA、Cal. 2868)。1996年には、創業者の名を冠したJules Audemarsコレクションに、ミニッツリピーター付きのグランド/プティ・ソヌリが加わった。続いて三音のカリヨンを備えたCal. 2890と、ぜんまいの張りを示すダイナモグラフを加えたCal. 2891が作られ、後者を積むRef. 25945は2000年に披露されたとされる。いずれも三本のハンマーと三枚のゴングによるカリヨンを持つ。
カリヨンの継承――Cal. 2945へ
Cal. 2945は、この2890/2891系を受け継ぐ後継とみられる。直径は29.90mm、石数は53石、振動数は21,600vph (3Hz)とされる。搭載するJules Audemars Ref.26344は、39mm(厚さ11.1mm)のプラチナケースで、2016年に1点物として数点が仕立てられた。そのうちいくつかはシンガポールの販売店ザ・アワーグラス向けだったとされる。Cal. 2945は伝統的なゴングを用いる構成で、後年の音響強化技術スーパーソヌリが登場する前の系譜に位置するとみられる。
産業のなかでの希少性
グランドソヌリは、量産の成立しない複雑機構である。塔時計の機構を手首に収める難しさゆえ、簡略版が存在しない。オーデマ ピゲでは1994年から2002年にかけて、Cal. 2868・2890・2891の3種のグランドソヌリ・キャリバーが合わせて188点作られたと伝わる。その数の少なさは、組立と調整に要する技能の高さを物語る。デュフォーやジェラルド・ジェンタら独立系の挑戦と、マニュファクチュールによる継続生産が、この機構の命脈を保ってきた。