AP 2945
三音のカリヨンで時を自動で告げる、オーディマ ピゲの手巻きグランドソヌリ・キャリバー
Cal. 2945は、オーディマ ピゲが手がける手巻きのグランドソヌリ・カリヨン・キャリバーである。毎正時に時数を、15分ごとのクォーターを自動で打つ自動打鈴機構を備え、三本のハンマーと三枚のゴングによる三音(カリヨン)で時を奏でる。振動数は21,600vph (3Hz)、石数は53石、パワーリザーブは48時間。部品点数は489点に及ぶ。文字盤にはスモールセコンドと、消費の激しい打鈴のエネルギー残量を把握するパワーリザーブ表示を備える。1990年代のCal. 2890/2891系を継ぎ、Jules Audemars Ref.26344(39mmプラチナ)に搭載される、少数のみの希少な複雑機構である。
| Maker | Audemars Piguet |
|---|---|
| Reference | AP 2945 |
| Type | Handwound |
| Display | Analog |
| Frequency | 21,600 bph (3 Hz) |
| Jewels | 53 石 |
| Power reserve | 48 h |
| Movement ⌀ | 29.9 mm |
| Hands | Hours, Minutes, Small Seconds |
| Acoustic | Grande Sonnerie |
| Additional | Power Reserve Indicator |
系譜と歴史
鳴り物の系譜とデュフールの委嘱
打鈴時計はオーディマ ピゲの古い得意分野である。19世紀以来、同社は懐中時計でミニッツリピーターやソヌリを手がけてきた。現代へ連なる転機は1980年代にある。独立時計師フィリップ・デュフールが、オーディマ ピゲの委嘱でグランドソヌリの懐中時計用ムーブメントを5点製作した。これが休眠していた複雑機構への関心を呼び戻す契機となったと伝わる。デュフールはその後独立し、1992年に腕時計用のグランド/プティ・ソヌリを世に問う。この機構を腕時計で実現した最初の例とされる。
自社プログラムの始動
オーディマ ピゲ自身も腕時計化を進めた。1994年、同社はクォーターリピーター付きのグランド/プティ・ソヌリ腕時計を発表する(Cal. 2868)。続く1990年代後半、創業者の名を冠したJules Audemarsコレクションに、グランドソヌリ・カリヨンが据えられた。これを担ったのがCal. 2890および2891である。両者はほぼ同設計だが、後者は打鈴系統に独立したパワーリザーブを備えた。いずれも三本のハンマーと三枚のゴングによるカリヨンを持つ。
カリヨンの継承――Cal. 2945へ
Cal. 2945は、この2890/2891系を受け継ぐ現代版である。Jules Audemars Ref.26344に搭載され、直径29.90mm、53石、21,600vph (3Hz) という諸元は先代の思想を踏襲する。ケースは39mmのプラチナ製で、限定およびピースユニークとして少数が仕立てられた。一部はシンガポールのザ・アワーグラス向けに作られたと伝わる。Cal. 2945は伝統的なゴングを用いる構成で、後年の音響強化技術スーパーソヌリが登場する前の系譜に位置する。
産業のなかでの希少性
グランドソヌリは、量産の成立しない複雑機構である。塔時計の機構を手首に収める難しさゆえ、簡略版が存在しない。オーディマ ピゲでは1995年から2002年にかけ、グランドソヌリを備えたムーブメントが188点製造されたと伝わる。その数の少なさは、組立と調整に要する技能の高さを物語る。デュフールやジェラルド・ジェンタら独立系の挑戦と、マニュファクチュールによる継続生産が、この機構の命脈を保ってきた。
技術解説
自動打鈴のための二つの輪列
Cal. 2945の核心は、時刻を刻む輪列とは別に、鐘を打つための独立した打鈴輪列を備える点にある。通常の三針時計は一つの香箱と輪列で動く。グランドソヌリは、時針と分針を駆動する系統に加え、一定の間隔で自動的に鐘を鳴らす機構を内蔵する。このため香箱も二系統に分かれ、時刻用と打鈴用がそれぞれ独立してエネルギーを蓄える。打鈴用と時刻用の動力を分けることで、鳴っている間も時刻精度への影響を抑える設計である。打鈴側は消費が激しく、文字盤のパワーリザーブ表示はその残量管理に資する。振動数は21,600vph (3Hz)、石数は53石、部品点数は489点に及ぶ。
カリヨン――三本のハンマーと三枚のゴング
「カリヨン(carillon)」とは、通常二枚で構成される打鈴用ゴングを三枚に増やした構成を指す。Cal. 2945では三本のハンマーが三枚のゴングを叩き、二音では出せない三音の和音を奏でる。三枚のゴングはそれぞれ異なる音高に調律され、和音の濁りを避けるため熟練の手で微調整される。クォーターを刻む音はこの三音による旋律となり、単純な二音の響きよりも豊かな余韻を生む。ゴングはムーブメント外周に沿って巻かれた細い鋼線で、その振動をケースへ伝える。打点の正確さとハンマーの戻り制御が、濁りのない発音を左右する。
グランド/プティ/サイレンスの切替
ソヌリ機構は三つの状態を選べる。グランドソヌリでは、毎正時に時数を打ち、各クォーターで時数と経過したクォーター数を繰り返し鳴らす。プティソヌリでは、正時に時数を打ち、各クォーターではクォーター数のみを鳴らす。時数を繰り返さない点がグランドソヌリと異なる。サイレンスでは自動打鈴を止める。塔時計が時を告げるように、装着者の操作なしに時が鳴る点が、要求に応じてのみ鳴るリピーターとの本質的な違いである。
エネルギーと仕上げ
自動打鈴は膨大なエネルギーを要する。15分ごとに鳴り続ければ打鈴用ぜんまいは急速に消費されるため、パワーリザーブは48時間にとどまる。これは打鈴機能の代償であり、短さは欠点ではなく構造上の必然である。安全機構も重要で、打鈴の最中にモードを切り替えても歯車を傷めないよう、各所に保護が組み込まれる。489点の部品は手作業で組み上げられ、面取りや筋目、ペルラージュといった伝統的な装飾が施される。オーディマ ピゲ社内でも、この機構を組み上げられる時計師はごく限られると伝わる。