AP 2126 / 2840
1985年、JLCベースにデュボア・デプラのクロノ機構を重ねた、初代ロイヤルオーク・オフショアの基幹自動巻
AP 2126/2840は、1985年にユイトゥメ・クロノグラフで初搭載された、オーデマ・ピゲの自動巻クロノグラフである。ジャガー・ルクルトの自動巻ベース(889系)に、デュボア・デプラ製のクロノグラフ・モジュール2840を重ねたモジュール構造を採る。振動数28,800vph (4Hz)、パワーリザーブは約40時間。ボールベアリング式の中央ローターを備え、クロノグラフ秒針は中央に配される。1993年には初代ロイヤルオーク・オフショアRef.25721に搭載され、同コレクションの出発点を支えた。後に2226、2326へと系譜を重ね、2007年に自社製ベースの3126/3840へ引き継がれている。
| Maker | Audemars Piguet |
|---|---|
| Reference | AP 2126 / 2840 |
| Type | Automatic |
| Display | Analog |
| Frequency | 21,600 bph (3 Hz) |
| Jewels | 33 石 |
| Power reserve | 45 h |
| Movement ⌀ | 26.5 mm |
系譜と歴史
1. 二つの出自を持つキャリバー
AP 2126/2840は、純然たる自社製とも汎用品とも言い切れない出自を持つ。型番が示す通り、本機は二つの要素から成る。ベースとなる自動巻キャリバー2126と、その文字盤側に重ねられたクロノグラフ機構2840である。前者はジャガー・ルクルトの自動巻ベースを土台とし、後者はヴァレ・ド・ジュウのモジュール専業メーカー、デュボア・デプラの設計による。
この構成は、当時のスイス時計産業ではむしろ自然なものであった。オーデマ・ピゲは一時期ジャガー・ルクルトの株式の約40%を保有しており、評価の高いベースムーブメントを同社から調達することに不自然さはなかった。同系統のベースは、IWCがマークXIIに採用したことでも知られる。複雑機構の一部を専業メーカーに委ねる分業もまた、この地域の伝統的な生産様式であった。後年「マニュファクチュール製」と紹介される例も見られるが、成り立ちはこうした地域分業の上にある。
2. ユイトゥメからオフショアへ
キャリバー2126は1983年に発表され、市場に届いたのは1985年であった。当時のクロノグラフ系列であるユイトゥメに搭載された形で世に出る。薄型で仕上げの行き届いたこのキャリバーは、ドレス寄りのクロノグラフとして評価を得た。
転機は1993年に訪れる。エマニュエル・ゲ(Emmanuel Gueit)の手になる初代ロイヤルオーク・オフショアRef.25721が、本機を心臓として登場した。42mmという当時としては大ぶりな筐体は「ザ・ビースト」と呼ばれ、後の大型スポーツウォッチの潮流を方向づけた。なお最初期の約200本には2126/2840が、その後は889/1系をベースとする2226/2840が用いられたと伝わる。系譜はさらに2326/2840へと続いた。
3. 自社製ベースへの移行
2007年、オーデマ・ピゲはオフショア・クロノグラフのベースを切り替える。自社開発の3120にデュボア・デプラ・モジュールを組み合わせた3126/3840がそれである。ジャガー・ルクルト由来のベースに依存した時代は、ここで一区切りを迎えた。この移行は、各メゾンが基幹部品の内製化へ向かった2000年代の業界全体の流れとも重なる。2126/2840は、垂直統合以前のスイス時計づくりの作法を体現した一基として、その歴史的位置を保っている。
技術解説
モジュール構造の成り立ち
2126/2840の機構は、二層の役割分担として理解できる。下層が時刻と日付を司る自動巻ベース2126、上層が計時を担うクロノグラフ・モジュール2840である。基礎輪列の上に独立した計時機構を重ねるこの方式は、モジュール式クロノグラフと呼ばれる。ベースの完成度をそのまま生かしつつ、計時機能を付与できる利点がある。
ベースムーブメントの素性
ベースとなるジャガー・ルクルト系の自動巻は、堅実な設計で知られる。テンプ(速度を制御する振動体)は28,800vph (4Hz)で振動する。1時間あたり28,800回、すなわち毎秒8回の往復は、外乱への安定性と薄さの両立に適した値である。テンプ素材には温度変化に強いグリュシデュール、緩急の調整にはKif(キフ)耐震機構を備える。巻き上げはボールベアリングで支持された中央ローターが担い、両方向の回転を巻き上げに変換する。ベース自体は中央から間接的に秒を駆動する間接中央秒針の設計だが、クロノグラフ化にあたり中央の針は計時用に割り当てられ、常時運針する秒は12時位置の小針へ移される。
クロノグラフ・モジュールの設計
上層のデュボア・デプラ2840は、カム(偏心した板状の制御部品)で始動・停止・復針を司るカム式である。柱状の部品で制御するコラムホイール式とは形式が異なるだけで、優劣ではなく設計思想の選択といえる。カム式は構造が比較的単純で、量産と整備の両面で扱いやすい特性を持つ。一方でプッシュボタンの感触はコラムホイール式とは異なる傾向を示す。モジュールを文字盤側に置く構造上、計時用の各カウンターは独特の配置をとる。スモールセコンドが12時位置、30分積算計が9時位置、12時間積算計が6時位置、そして日付が3時位置に収まる。
仕上げと諸元
仕上げにはコート・ド・ジュネーブ(ジュネーブストライプ)やペルラージュ(真珠状の円形擦り仕上げ)が施され、オーデマ・ピゲの基準に沿った装飾が見られる。石数はベース単体でおよそ36石、モジュールを含む完成状態では約50〜51石とされ、出典により計数に幅がある。パワーリザーブは約40時間で、香箱一つから得られる標準的な値に収まる。モジュール構造ゆえ全体の厚みはベース単体より増すが、ドレスクロノとして許容される範囲にまとめられている。保守の際は、計時機構と基礎輪列を層ごとに切り分けて扱える点が、整備性の面で意味を持つ。