アール・デコと「裏返す」という発想
1920年代のヨーロッパでは、幾何学的な造形を尊ぶアール・デコの美意識が時計にも及んでいた。腕時計はまだ新しい道具であり、剥き出しの風防をいかに守るかは現実的な課題だった。文字盤を覆う蓋、頑丈な枠——各社が解決策を競うなか、ひとつの大胆な着想が現れる。ケースそのものを裏返し、文字盤と風防を内側に隠してしまうという発想である。反転式の時計という概念は古く、1914年にはルイ・ヴァン・ベメルが反転式の時計で特許を取得したと伝わる。その概念を腕時計の意匠へと昇華させた一例が、ユニバーサル・ジュネーブのカブリオレであった。