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SPEAKE-MARIN · SERIES

Cabinet des Mystères

キャビネ・デ・ミステール

時計学の論理を脇に置き、文字盤を物語と複雑機構の舞台に変えるSpeake-Marinの一点物の系譜である。

42 mm
01 — 概要 / SUMMARY

Cabinet des Mystères(キャビネ・デ・ミステール)は、Speake-Marinが2013年に立ち上げた機械芸術の系列を起点とし、2014年に現在の名を得た作品群である。実用や定石をいったん脇に置き、文字盤を物語と複雑機構の舞台に変えることを主眼とする。三重の時分表示を見せるTriad、跳躍時針のJumping Hours、古代銅鼓を彫刻したDong Son、髑髏を主題とするFace to Face、トゥールビヨンとミニッツリピーターを束ねたCrazy Skullsなど、多くが一点物か少数限定で構成される。創業者ピーター・スピーク・マリンの思索を映す、ブランドの実験場である。

02 — STORY · 物語

Cabinet des Mystères(キャビネ・デ・ミステール)、これまでの軌跡

The story of this series
01

「神秘の棚」という枠組み

Speake-Marinの公式の語りは、19世紀ロンドンの紳士クラブの一室から始まる。書物に囲まれ、世界中の難問や謎への答えを蔵したその部屋に、ひときわ堅く秘密を守る一画があった。それがCabinet des Mystères、すなわち「神秘の棚」である。コレクション名はこの設定に由来する。

独立時計師として出発したピーター・スピーク・マリンにとって、定石どおりの時分表示や量産の論理は、必ずしも創作の出発点ではなかった。実用の制約をいったん外し、機械仕掛けと装飾を物語として提示する余地、それを確保するための枠組みがこの棚であった。後年ブランドは、このコレクションを「現代の時計師の物語を語るもの」と説明している。

02

メカニカルアートの始動 — TriadとJumping Hours

出発点は2013年に立ち上げられたMechanical Artの系列である。最初の一本Triadは88本限定で、三組の時分針を文字盤上に並べた異形の時計であった。針は熱処理で青く焼かれたFoundation型、その下にはブランドの象徴である「トッピングツール」形の歯車が複数配される。動力は自動巻のEros 2で、これはTechnotime社のTT 738を基礎に自社で5日巻へ仕立てたものである。毎時28,800振動 (4Hz)、120時間の動力をもつ。「3 NOTES 1 MEANING」、音楽の三和音になぞらえた銘が文字盤の縁に刻まれる。

2014年、ブランドは製品系列をSpirit、J-Class、そしてCabinet des Mystèresの三つに再編し、Mechanical Artはこの棚の中へ収められた。ほどなく発表されたJumping Hoursは、機械系の到達点といえる一点物である。中央の分針と秒針に加え、4本の小さな時針が毎時いっせいに跳ぶ。文字盤は機械の地板上面そのものであり、TriadとほぼひとつのTT 738系を基礎とする。製作は単一の時計師の手によった。

03

文字盤を画布に変える — エッチングと古代文化

2015年、コレクションのもうひとつの系統、装飾を主題とするFine Artが大きく動く。スピーク・マリンは古代文化の図像へと向かい、文字盤そのものを彫刻の対象とした。

Kennin-Ji Temple Masters Projectでは、禅に通じる龍を文字盤に彫り、自社開発のSM2を収めた。SM2は2009年に完成した同社初の完全自社機で、毎時21,600振動 (3Hz)、ドイツ銀の地板を手仕上げする。

同年のDong Son Tourbillonは、ベトナム北部に栄えたドンソン文化の青銅鼓に着想を得る。中央に星芒、その周囲に白鷺と武人が連なる図像を、厚さ1.0mmの18kレッドゴールド円盤へ化学エッチングで刻んだ。彫りの深さは0.3mmにとどまり、スピーク・マリンは人の手では到達しえない精度と述べている。動力はマイクロローター式の自動巻トゥールビヨンCalibre SM3で、6時位置のケージはトッピングツール形を取る。

04

メメント・モリ — 髑髏という主題

この棚を貫くもうひとつの主題が、メメント・モリ、すなわち「死を想え」という中世以来の警句である。スピーク・マリンは早くからこの思想に親しみ、死を意識することが生をより強く意識させると語ってきた。ブランドの説明によれば、髑髏はこのコレクションの文字盤に十年ほど前から置かれてきたとされる。

2016年のSkull Face to Face Tourbillonは、向かい合う二つの金の髑髏を化学エッチングで描き、ベゼルに36石のバゲットダイヤ(計2.16カラット)を据えた。永遠の象徴としての宝石と、死の象徴としての髑髏が同居する。6時には60秒トゥールビヨンが置かれる。黒い髑髏で構成したFace to Face(PIC.60013)など、仕上げを一本ごとに変えた少数限定の派生も生まれた。

05

三重複雑への到達と現在地 — Crazy Skulls

2017年、ブランドは初めてSIHHに出展し、Crazy Skullsを披露した。黒とグレーの二点のユニークピースである。透かし彫りの文字盤に向かい合う二つの髑髏が、中央でハートをかたちづくる。8時のスライドを引くとミニッツリピーターのカリヨンが鳴り、同時に二つの髑髏が左右へ開いて、隠れていた60秒トゥールビヨンが姿を見せる。12時のローマ数字XIIは崩れ、打刻が終わると髑髏は再び閉じ、数字も元へ戻る。トゥールビヨン、ミニッツリピーターカリヨン、文字盤の演出を一本に束ねたのは、同社にとって初の試みであった。動力は手巻のCalibre SMC01、72時間の動力をもつ。

創業者は2017年前後にブランドの直接の運営から離れ、自身の情報サイトThe Naked Watchmakerへ軸足を移したと伝わる。メゾンはその後もこの棚を引き継ぎ、近年はフライングトゥールビヨンとカリヨンを組み合わせた自社Calibre SMAHH-02搭載のCrazy Skullsへと機構を更新している。実用の論理を外したところに成り立つこの棚は、いまも創業者の発想を語り継ぐ場であり続けている。

03 — DESIGN · 設計思想

意匠を貫く設計言語

What this series guards, and what it lets change

Cabinet des Mystèresには、ダイバーズウォッチのような固定された「顔」がない。むしろ実用の定石を外し、一本ごとに主題を変えることそのものが、この棚の設計思想である。だが無秩序ではない。変えない器と、変えてよい画布とを明確に分ける点に、確かな一貫性がある。

変えない器の中心はPiccadillyケースである。将校時計に通じる丸みのある42mm(一部は38mm)のケースに、襞を刻んだ冠を備える。針はつねにFoundation型、すなわち同社最初の時計に由来する青焼きスチールの形が用いられる。そして機械には、トッピングツールの意匠が繰り返し現れる。ミステリーローター、秒の歯車、トゥールビヨンのケージ。工具の輪郭を借りたこの形が、作品ごとに姿を変えながらも全体を束ねる視覚の錨となる。地板はドイツ銀を基本とし、サーキュラーグレインと手磨きの面取りが施される。仕上げの語彙は、主題が変わっても揺らがない。

自由に変わるのは文字盤である。化学エッチングは、人手の彫りでは届かない微細な凹凸を金無垢の円盤に刻む技法で、ドンソン銅鼓の図像や髑髏の陰影を、深さ0.3mmほどの起伏として定着させる。ここに龍やメメント・モリといった物語が載る。彫りに漆や色を重ねれば、図像はさらに奥行きを得る。器の不変が信頼を、画布の可変が驚きを担うという分業がここにある。

この構図は、機能が顔を規定する道具時計とは反対の発想に立つ。独立時計師が考案する機構の妙と、職人が刻む装飾とを、創業者個人の物語のもとで一本に同居させる。同時代の独立系が掲げる芸術時計とも、物語を軸にした器と画布の分業という点で輪郭を異にする。

04 — MOVEMENT EVOLUTION

ムーブメントの変遷

Calibers across the decades
2013-2014
Cal. Eros 2 (TT 738系)
調達ベースを改修した自動巻、機械芸術の起点。
2015
Cal. SM2
自社初の時分秒機、彫刻文字盤に搭載。
2015-2016
Cal. SM3 (SMA-HH03)
自社初の自動巻トゥールビヨン、マイクロローター式。
2017
Cal. SMC01
手巻トゥールビヨン+ミニッツリピーターカリヨン。
2020s-現在
Cal. SMAHH-02
フライングトゥールビヨン+カリヨンの自社機。
05 — REFERENCE EVOLUTION

Ref. 変遷

Reference generations
2013-2014

メカニカルアートの起点

Triad
88本限定。三組の時分針と歯車群を文字盤化した最初の一本。
2014-2015

機械系の頂点(一点物)

Jumping Hours
中央針と4本の跳躍時針を備えた単一製作、機械芸術の到達点。
2015

化学エッチングの確立

Dong Son Tourbillon
古代銅鼓を化学エッチングした金無垢文字盤、自社トゥールビヨン。
2016

メメント・モリの主題

Face to Face (PIC.60013) ほか
向かい合う二つの髑髏を刻んだ文字盤群、生を見つめる思想を込める。
2017

初の三重複雑(各1本)

Crazy Skulls
トゥールビヨン・ミニッツリピーター・文字盤演出を初めて結合。
2020s-現在

自社グランコンへ刷新

Crazy Skulls Flying Tourbillon
フライングトゥールビヨン世代へ、自社SMAHH-02を搭載。
06 — ALL REFERENCES

このシリーズの全 1 モデル

1 references in archive