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MORITZ GROSSMANN · SERIES

Benu

ベヌー

不死鳥の名のもとに、19世紀グラスヒュッテの懐中時計術を手巻腕時計へ翻訳した創業コレクション。

41 mm – 44.5 mm
01 — 概要 / SUMMARY

Benu(ベヌー)は、2010年に発表された Moritz Grossmann の創業コレクションである。1世紀以上休眠していた19世紀の名を甦らせた一本であり、不死鳥の名がその再生を象徴する。毎時18,000振動の緩やかな手巻、洋銀の地板、茶紫色に焼き戻した針、そしてプッシャー付きの針合わせ機構を共通言語とする。現在は Tourbillon、Power Reserve、自動巻 Hamatic、37mm 径などへ枝分かれし、Heritage と Contemporary の二系統に整理されている。

02 — STORY · 物語

Benu(ベヌー)、これまでの軌跡

The story of this series
01

復活の象徴としての「ベヌー」

Moritz Grossmann の名は、19世紀のグラスヒュッテで時計師モリッツ・グロスマンが築いたものである。創業者の死後、その名は1世紀以上にわたり休眠していた。2008年、クリスティーネ・フッターが商標を取得し、マニュファクチュールを再興する。最初の腕時計に与えられた名が「Benu(ベヌー)」であった。

ベヌーは古代エジプト神話の霊鳥で、灰の中から甦る不死鳥に通じるとされる。休眠していた名の再生を、フッターはこの一語に託した。2010年9月、初代 Benu が発表される。41mm のローズゴールドケースに自社開発の手巻キャリバー 100.0 を収めた100本限定であり、瞬く間に売り切れた。外部調達のムーブメントに頼らず、針までを自社で作るという方針が、創業作からの出発点であった。

02

創業作が定めた設計言語

初代 Benu は、その後のシリーズ全体を貫く文法をすでに備えていた。文字盤は銀無垢で、アラビア数字とレイルウェイ式の分目盛りを持つ。針はステンレスを削り出し、炎で焼き戻して茶紫色に発色させた「グロスマンの針」。洋銀(ジャーマンシルバー)の地板には、ねじ留めされた金無垢シャトン(受石の台座)が段差をなして並ぶ。

最も独自なのは、時刻合わせの機構である。リューズを軽く引くと針合わせモードに入り、機械が停止する。リューズは自動で元の位置へ戻り、針だけを正確に動かせる。設定後、リューズ脇のプッシャーを押すと運針が再開する。この「プッシャー付きグロスマン巻上機構」は、防塵性と誤操作の防止を狙った独自の解である。テンプは毎時18,000振動 (2.5Hz) という緩やかな歩度を刻み、高振動に頼らず精度を求める姿勢を示す。

03

複雑機構への展開 — トゥールビヨンとパワーリザーブ

2013年、創業5周年を機に Benu Tourbillon が加わる。キャリバー 103.0 は、直径16mm のケージを持つフライングトゥールビヨンを6時位置に据える。1回転に3分を費やす緩やかな回転と、文字盤側・裏蓋側の双方から構造を見せる構成が特徴である。

トゥールビヨンの停秒には、人毛を用いた弾性ブラシがテンプの輪に触れて静かに制動する機構が採られた(特許出願中とされた)。フライングトゥールビヨンを1920年に考案したグラスヒュッテの時計師アルフレート・ヘルヴィヒの仕事が、開発の下敷きになったと伝わる。

翌2014年、Benu Power Reserve が発表される。キャリバー 100.2 はキャリバー 100.1 を発展させ、遊星歯車によるパワーリザーブ表示を加えた。日常の装着を見据えた一本であり、同時期には姉妹シリーズ Atum も登場している。

04

小径化と自動巻 — 37mm と Hamatic

2018年4月、ケース径を37mm に抑えた Benu Heritage 37 が加わる。41mm の意匠を比率を保って縮小し、より幅広い手首に合う寸法とした。専用に設計された小型キャリバー 102.1 を収める。

同じ2018年、バーゼルワールドで自動巻の試作機 Hamatic が披露された。中央ローターではなく、振り子状のハンマーが往復して両方向に巻き上げる「ハンマー巻上式」を採る。1780年頃のブレゲのペルペチュエルに通じる古い自動巻の発想を、現代に翻訳した機構である。量産モデルは2019年に登場し、同社初の自動巻となった。搭載するキャリバー 106.0 は毎時21,600振動 (3Hz) と、手巻系より速い歩度を持つ。

05

現代の到達点 — Heritage と Contemporary

現在、Benu はブランドの中核を担うコレクションとして、意匠の方向性で Heritage と Contemporary の二系統に整理されている。Heritage は1875年の「M. Grossmann」ロゴや段差シャトンなど、創業者の懐中時計に連なる古典的な表情を持つ。Contemporary はより現代的な表現を担う。

派生は文字盤芸術と素材の両面で広がってきた。手彫りの粒状装飾を施した Tremblage、グランフー・エナメル、セクター文字盤やサーモンダイヤル、そしてステンレスケースの展開などである。トゥールビヨン、パワーリザーブ、Hamatic、37mm といった機構・寸法の変奏も併存する。創業作が定めた文法を保ちながら、Benu は緩やかに枝を広げ続けている。

03 — DESIGN · 設計思想

意匠を貫く設計言語

What this series guards, and what it lets change

Benu の設計思想は、「読みやすさ」と「自制」の二語に収斂する。

機能面の核は、視認性を最優先する文字盤構成にある。銀無垢の地に、外周のアズュラージュ(同心円の彫り装飾)とレイルウェイ式の分目盛りが配され、時刻を一目で読ませる。針は炎で焼き戻した茶紫色のステンレス製で、洋梨形の時針と、最も細い箇所が0.1mm という針状の分針が明確な対比をなす。色数を抑え、装飾を増やさないという判断が、創業以来の文字盤を貫いている。

ケースは3分割構造で、細いベゼルと緩やかに傾斜するラグを持つ。41mm を基準に、37mm へと比率を保って縮小された。派手な造形を避け、文字盤を主役に置くプロポーションである。

機械の意匠は、グラスヒュッテの懐中時計の系譜に立つ。地板と2/3プレートは無処理の洋銀で、横方向の幅広いグラスヒュッテ・ストライプと、香箱の歯車に施された三連のスネイル装飾が手仕事の痕跡を残す。白サファイアの受石は金無垢シャトンに収められ、地板面より一段高く据えられる。これは個別に取り外して洗浄できるという、懐中時計由来の実用的な配慮でもある。テンプ受けとガンギ受けの彫刻は、すべて手で施される。

同じグラスヒュッテの A. Lange & Söhne が3/4プレートで機械の多くを覆うのに対し、Grossmann は2/3プレートを採り、輪列やテンプをより広く見せる。毎時18,000振動 (2.5Hz) という緩やかな歩度も、高振動が主流の現代にあって独自の選択である。

意匠の継承を最も象徴するのが、プッシャー付きの巻上・針合わせ機構である。針を合わせたのち、あえてもう一動作——プッシャーを押す——を求めるこの仕組みは、操作の確実さと、時を「動かし直す」という所作の明示を両立させる。何を変え、何を変えないか。Benu の設計は、その線引きの一貫性に支えられている。

04 — MOVEMENT EVOLUTION

ムーブメントの変遷

Calibers across the decades
2010-
Cal. 100.0
創業作の基幹手巻。2/3プレートと茶紫の針。
2013-
Cal. 103.0
3分フライングトゥールビヨン。人毛ブラシ式停秒。
2014-
Cal. 100.2
100.1派生。パワーリザーブ表示を付加。
2018-
Cal. 102.1
37mmケース用に縮小した手巻機械。
2019-
Cal. 106.0
ハンマー式自動巻。毎時21,600振動。
05 — REFERENCE EVOLUTION

Ref. 変遷

Reference generations
2010-2013

創業作・初代Benu

Benu Cal. 100.0
41mmローズゴールド100本限定。手巻キャリバー100.0を初搭載。
2013-2014

初の複雑機構・トゥールビヨン

Benu Tourbillon Cal. 103.0
創業5周年記念。3分で1回転するケージを6時に据える。
2014-2018

実用複雑への展開・パワーリザーブ

Benu Power Reserve Cal. 100.2
遊星歯車による残量表示を加え、日常装着を見据える。
2018-2019

小径化と初の自動巻Hamatic

Benu Heritage 37 Hamatic
37mmケースを追加し、ハンマー巻上機も加わる。
2019-現在

現行の二系統体系へ整理

Heritage Contemporary
意匠別の二系統に整理。エナメルや特殊文字盤も拡充。
06 — ALL REFERENCES

このシリーズの全 2 モデル

2 references in archive