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H. MOSER & CIE · SERIES

Pioneer

パイオニア

ドレスの名門がfumé文字盤を武骨なスティールケースへ移し、日常の冒険に踏み出したスポーツライン。

42.8 mm
01 — 概要 / SUMMARY

Pioneer(パイオニア)は、2015年にH.モーザー(H. Moser & Cie.)が発表したスポーツラインである。繊細なドレスウォッチで知られた同社が、fumé(燻し文字盤)と耐久性を備えた日常使いの一本へ踏み出した転換点だった。中核はスティールのCentre Seconds(センターセコンド)。ここにフライングトゥールビヨン、隣り合う窓で表示するPerpetual Calendar、円筒ひげのCylindrical Tourbillon、衛星式のFlying Hoursが加わり、堅牢なケースのなかで複雑機構を展開してきた。ドレスとスポーツの境界を曖昧にする、現代モーザーの実験場でもある。

02 — STORY · 物語

Pioneer(パイオニア)、これまでの軌跡

The story of this series
01

なぜ「Pioneer」だったのか

2012年、メイラン家のMELBホールディングがH.モーザー(H. Moser & Cie.)を傘下に収めたとき、同社はパーペチュアルカレンダー(永久カレンダー)などで評価される繊細なドレスウォッチの作り手だった。一方で、年産数千本という規模の独立系にとって、入口となる日常使いのスポーツウォッチを欠いていた。Pioneerはその空白を埋めるために構想された。

社名の由来でもある創業者ハインリヒ・モーザー(Heinrich Moser)は、1828年にサンクトペテルブルクで会社を起こした時計師であると同時に、故郷シャフハウゼンへ戻ってライン川に水力機械式のダムを築いた産業の開拓者でもあった。「Pioneer」という名は、この開拓精神への参照である。開発には3年を要したとされ、当初2016年に予定していた発表を1年前倒しして2015年に披露した。発表に際してはパラボリックフライトによる無重力環境での披露が行われたと伝えられ、冒険的な性格を印象づけた。

02

2015 — ゴールドで始まったスポーツ宣言

最初のPioneer Centre Secondsは、意外にも18KレッドゴールドとブラックDLCチタンの組み合わせ(Ref. 3230-0900系)だった。直径42.8mm、120m防水。スポーツラインの第一号でありながら高価な素材から始めた点に、モーザーらしい逆張りがある。

心臓部は新設計の自動巻Cal. HMC 230。毎時21,600振動 (3Hz)、最低3日間のパワーリザーブ、双方向の爪式巻上げを備える。文字盤には同社の象徴であるfuméを採用し、ドレスの意匠をスポーツケースへ移植した。ラバーストラップはモーザーにとって初の試みだったとされる。

03

スティールがもたらした日常性

転機は2017年。新たな主力キャリバーCal. HMC 200が登場し、スティールケースのPioneer Centre Seconds(Ref. 3200-1200、ミッドナイトブルーfumé)が加わった。これは当時のラインで唯一のスティール製モデルであり、貴金属中心だったモーザーに、相対的に手の届く入口を与えた。

HMC 200はStraumann製ひげぜんまいと交換可能なモーザー脱進機、ハッキングセコンドを備え、約72時間のパワーリザーブを持つ。fumé文字盤を量産スティールで味わえるようになったことで、Pioneerはブランドの「最初の一本」としての役割を担い始めた。

04

複雑機構が冒険に出る

Pioneerは三針にとどまらなかった。2018年末から2019年にかけて、複雑機構が次々と堅牢なケースへ持ち込まれる。

まずPioneer Tourbillon(Ref. 3804系、Cal. HMC 804)。6時位置のフライングトゥールビヨンと、姉妹会社が製造する自社製ダブルひげぜんまいを組み合わせ、120m防水のスティールケースに収めた。日常で使えるトゥールビヨンという発想で、当時のモーザーで最も手の届くトゥールビヨンとされた。続くPioneer Perpetual Calendar MD(Ref. 3808系、Cal. HMC 808)は、モーザー流のパーペチュアルに修正を加えた一本である。従来は中央の短針で月を示す極小主義だったが、ここでは日付と月を隣り合う窓で表示し、視認性を優先した。手巻のHMC 808はダブルバレルで7日巻、うるう年表示は裏面に置かれる。

2022年のWatches & Wondersでは、Pioneer Cylindrical Tourbillon Skeleton(Ref. 3811-1200、Cal. HMC 811)が披露された。18世紀の航海用クロノメーターに用いられた円筒ひげぜんまいを、フライングトゥールビヨンと組み合わせたスケルトン機である。その技術は2020年のH. Moser × MB&F(Cal. HMC 810)から受け継がれている。トゥールビヨンを120m防水のスティールへ入れるという姿勢が、Pioneerの性格をよく表す。

05

色という言語、そして10年目

モーザーは挑発的なユーモアでも知られる。2017年、スイス産チーズで作ったケースの「Swiss Mad Watch」でスイスメイド表示の緩さを風刺した逸話は名高く、その赤いfumé文字盤はのちにPioneer Centre Seconds Swiss Mad Redへ反映された。近年はStudio Underd0gとの食べ物を題材にしたコラボや、2025年の鮮烈なターコイズとオレンジによる「Spiced Aqua」三部作(Centre Seconds/Tourbillon/Cylindrical Tourbillon)など、色をひとつの言語として扱う姿勢が際立つ。

2025年はPioneer発表から10年の節目だった。Geneva Watch Daysで発表されたPioneer Flying Hours(Ref. 3240系、Cal. HMC 240)は、三つの窓で時を、中央の円盤で分を示す衛星式表示で、HMC 200系を発展させた機構を積む。同年にはチタン製40mmケースに回転ベゼルとブレスレットを与えたモデルも登場した。ただし120m防水で規格上のダイバーズではないため、モーザー自身は「ダイバー」と呼ばない。三針から複雑機構まで、堅牢なケースと燻し文字盤という共通言語のもとで、Pioneerは枝を広げ続けている。

03 — DESIGN · 設計思想

意匠を貫く設計言語

What this series guards, and what it lets change

Pioneerの設計言語は、堅牢な日常性とドレスの感性の両立にある。何を変えず、何を動かしてきたかが、その輪郭を決めている。

ケースは直径42.8mmの二枚構造を基本とし、側面に格子状の意匠を刻む。これは創業者が手がけた水力ダムやタービンといった産業的モチーフへの参照とされ、Pioneerの最も識別しやすい特徴になっている。緩やかに湾曲したラグ、凸型のベゼル、「M」を刻んだ円錐形のねじ込み式リューズ、湾曲したサファイアクリスタル。120m防水とあわせ、日常の道具としての強度を担保する。

意匠の核は文字盤にある。中心から外周へ向かって暗く沈むfuméは本来ドレスウォッチの語彙だが、Pioneerはこれをスポーツケースの主役に据えた。面取りされたアプライドインデックス、フランジ上の夜光ドット、部分的にスケルトン化されたリーフ型針にSuper-LumiNova(蓄光塗料)を施し、視認性を確保する。多くのモデルでロゴを最小限にとどめ、装飾を文字盤のグラデーションだけに絞る。この抑制があるからこそ、鮮烈なケースカラーと同居しても破綻しない。

変わらないものと変わるものは明確に分かれる。fumé文字盤、リーフ型針、ロゴの抑制、格子状のケースと円錐リューズ——これらは10年を通じて保たれた。一方でサイズ(42.8mmから40mmへ)、色、素材、搭載機構は柔軟に動かしてきた。

輪郭は同時代の競合との対比でも見える。Royal OakやNautilusのような一体型ブレスレットの高級スポーツが、ブレスとタペストリー文字盤で自己を規定するのに対し、Pioneerはまずストラップとfumé文字盤で語る。アイデンティティはブレスレットではなく、文字盤のグラデーションとケースの稜線にある。またSubmarinerやSeamasterが回転ベゼルを標準装備する本格ダイバーであるのに対し、Pioneerは120m防水ながら規格上のダイバーズではない。回転ベゼル付きは例外的な存在で、モーザー自身も「ダイバー」を名乗らない。スポーツとドレスのどちらにも振り切らず、その中間に踏みとどまること——それがPioneerの設計思想である。

04 — MOVEMENT EVOLUTION

ムーブメントの変遷

Calibers across the decades
2015-2017
Cal. HMC 230
初代の自動巻。3Hz・最低3日巻、双方向爪式巻上げ。
2017-現在
Cal. HMC 200 / 201
スティール版の主力。Straumann製ひげで約72時間巻。
2019-現在
Cal. HMC 804 / 805
自動巻フライングトゥールビヨン、自社製ダブルひげ。
2019-現在
Cal. HMC 808
手巻パーペチュアル。ダブルバレルで7日巻。
2022-現在
Cal. HMC 811
円筒ひげのスケルトン・トゥールビヨン。74時間巻。
2025-現在
Cal. HMC 240
衛星式フライングアワーズ。HMC 200系の発展形。
05 — REFERENCE EVOLUTION

Ref. 変遷

Reference generations
2015

初代センターセコンド

3230-0900 系
ゴールド/DLCチタンで発表、Cal. HMC 230を積むスポーツ第一号。
2017

スティールの基準形

3200-1200
Cal. HMC 200を得て、手の届くfuméスティールの日常機となる。
2019

複雑機構の獲得

3804 3808 系
フライングトゥールビヨンと窓式パーペチュアルが堅牢なケースへ。
2022

円筒ひげの立体世代

3811-1200
円筒ひげぜんまいのスケルトン・トゥールビヨンHMC 811を搭載。
2025

10周年と40mm化

3240 3201 系
衛星式Flying Hoursと40mm世代、Spiced Aquaが加わる。
06 — ALL REFERENCES

このシリーズの全 1 モデル

1 references in archive