UG-111
2026年のブランド復活で発表された、カブリオレの矩形ケース専用に成形された手巻の異形キャリバー
UG-111は、2026年のブランド復活に際してユニバーサル・ジュネーブが発表した自社製の手巻ムーブメントである。矩形ケースを備えるカブリオレ専用に成形された異形キャリバーで、27×17.5mm、厚さ3mmという薄い輪郭を持つ。毎時21,600振動 (3Hz) で駆動し、約72時間のパワーリザーブを確保する。緩急針を持たないフリースプラング・テンプを採用し、時・分・スモールセコンドを表示する。搭載機はカブリオレ・プレタポルテと、ケースバックに細密画を描いたカプセル「ド・レンピッカ」である。
| Maker | Universal Geneve |
|---|---|
| Reference | UG-111 |
| Type | Handwound |
| Display | Analog |
| Frequency | 21,600 bph (3 Hz) |
| Jewels | 23 石 |
| Power reserve | 72 h |
| Hands | Hours, Minutes, Small Seconds |
系譜と歴史
1. 休眠からの再起
ユニバーサル・ジュネーブは1894年創業のスイス老舗で、かつて「時計の仕立屋」と称された。自社開発のムーブメントと、1958年のCal.215に始まるマイクロローター機構の先駆で知られる。だが20世紀後半に勢いを失い、長く実質的な休眠状態にあった。2023年12月、ブライトリングが同ブランドを取得し、専任チームによる再興を発表する。そして2026年、新たなコレクション群とともにブランドは市場へ戻った。この復活を技術面で支えるのが、新設計のキャリバー・ファミリーである。自動巻マイクロローターのUG-110、クロノグラフのUG-200、そして手巻のUG-111。本機は、その手巻の基幹ムーブメントとして開発された。
2. 矩形のための専用設計
カブリオレの源流は、1933年に特許を得た反転ケースの「イデオ」にさかのぼる。ケースを枠の中で回転させ、文字盤の側を伏せて風防を守るという発想であった。現行のカブリオレもこの反転機構を受け継ぎ、裏返した面にはサファイアの窓から機械が覗く。だからこそ、その機械は見せるに足る姿でなければならない。設計上の課題は、細長い矩形ケースにどう機械を収めるかである。丸型ムーブメントを矩形ケースへ落とし込めば、四隅に空隙が生じる。UG-111は、ケース形状そのものに合わせて成形された異形ムーブメント、すなわちフォルム・ムーブメントである。27×17.5mmという矩形の輪郭は、ケースの容積を無駄なく使い切るための選択であった。
3. キャリバー・ファミリーの中で
同時に発表されたUG-110とUG-200は、いずれも自動巻のマイクロローターである。これに対しUG-111は、手巻という点で性格を異にする。毎時21,600振動 (3Hz) という古典的な拍動も、薄型の手巻という性格に通じる。一方で約72時間のパワーリザーブやフリースプラング・テンプといった現代的な構成は、ファミリー全体に共通する。日付表示を持たない簡潔な時・分・秒の構成も、薄さと古典性を保つための判断といえる。手巻の異形ムーブメントは現代の市場では数が少なく、本機はカブリオレという特異なケースと不可分の存在として位置づけられる。
技術解説
UG-111の核心は、矩形ケースに相似する異形(フォルム)設計にある。27×17.5mm、厚さ3mmという寸法は、丸型では生じる四隅の空隙をなくす。地板と受けは、細長い輪郭の隅々まで行き渡る。一般に異形ムーブメントは、輪列(歯車の列)や香箱(ゼンマイを収める部品)を細長い領域に配さねばならない。丸型を流用する手法より、設計と量産の難度は高い。矩形の地板では、受けやネジの位置取りの自由度も下がる。限られた幅の中で各部品の干渉を避ける配置が、設計の要諦となる。その手間と引き換えに、ケースの容積を機構と仕上げの面積へ転化できる点が、専用設計の利である。
調速はフリースプラング・テンプが担う。これは緩急針(ヒゲゼンマイの実効長を変えて歩度を加減する部品)を持たない。代わりに、テンプの輪に設けた微小な錘で精度を整える方式である。ヒゲゼンマイ(テンプを往復させる渦巻ばね)の有効長が固定されるため、姿勢差や衝撃による狂いが生じにくい。緩急針式に比べ調整には熟練を要するが、長期の安定を見込める方式として上位の機械に採られる傾向がある。テンプとヒゲゼンマイは精度の心臓部であり、振動の安定がそのまま歩度の安定に直結する。拍動は毎時21,600振動、すなわち1秒あたり6回の振動 (3Hz) である。現行の多くが採る毎時28,800振動 (4Hz) より低い。高い振動数は外乱への強さを得やすく、低い振動数は機構への負荷が穏やかで薄型の手巻に調和する。優劣ではなく、設計思想の違いである。
厚さ3mmの薄型でありながら、約72時間という長いパワーリザーブを備える。週末をまたいでも止まらない余裕は、香箱とゼンマイ、輪列の効率に支えられている。薄型と長時間リザーブの両立は、ゼンマイの厚みや巻数、香箱の径の綿密な釣り合いの上に成り立つ。手巻ゆえ巻き上げは竜頭から行うが、カブリオレでは反転ケースを起こして竜頭に触れる操作と一体になる。長いリザーブは、その巻き上げの頻度を抑えることにもつながる。なお石数は公表されていない。
仕上げにはコート・ド・ジュネーブ(平行に走る筋目模様)が施され、反転面に開くサファイアの裏蓋から鑑賞できる。表示は時・分と、下部に配したスモールセコンドのみで、日付を持たない。スモールセコンドは輪列から取り出され、矩形の縦長な構図に収まる。日付機構を省くことは、3mmという薄さを保つうえでも理にかなう。この簡潔さが、薄さと矩形の均衡を保っている。機構は耐衝撃性を備え、日常の着用を前提に設計されている。公式にクロノメーター等の認定はうたわれていない。