MT5602-1U
2021年、ブラックベイ・セラミックで初のMETASマスター・クロノメーター認定を得た、チューダーの全黒自動巻
MT5602-1Uは、2021年にブラックベイ・セラミックへ初搭載されたチューダーの自社製自動巻キャリバーである。基幹のMT5602を母体としつつ、外装に合わせて全構成部品を黒く仕上げた点に特徴がある。毎時28,800振動 (4Hz)、70時間のパワーリザーブ、25石を備え、非磁性のシリコン製ヒゲゼンマイを採用する。COSCに加え、スイス連邦計量・認定局 (METAS) のマスター・クロノメーター認定を取得する。15,000ガウスの耐磁性能を保証し、オメガ以外で初めて同認定を得たムーブメントとしても知られる。
| Maker | Tudor |
|---|---|
| Reference | MT5602-1U |
| Type | Automatic |
| Display | Analog |
| Frequency | 28,800 bph (4 Hz) |
| Jewels | 25 石 |
| Power reserve | 70 h |
| Movement ⌀ | 31.8 mm |
| Hands | Hours, Minutes, Seconds |
| Additional | Chronometer |
系譜と歴史
1. ETAからの独立
長らくチューダーは、ETAをはじめとする供給メーカーの汎用ムーブメントを搭載してきた。親会社ロレックスとの差別化を図る上で、外部調達は合理的な選択であった。その方針が転換したのが2015年である。同年、チューダーは初の自社製キャリバーMT5621をノースフラッグに搭載し、製造者としての歩みを始めた。
MT56系と呼ばれるこの世代は、ロレックス由来の技術思想を色濃く受け継ぐ。フリースプラング式の調整機構、シリコン製ヒゲゼンマイ、両持ちの横断ブリッジ。いずれも堅牢性と耐磁性を重んじた設計である。日付なし3針のMT5602は、この系譜に連なる基幹キャリバーとして、ブラックベイやブラックベイ・ダークを駆動してきた。
製造はキャリバー専業の合弁会社Kenissiが担う。チューダーはここを起点に、ブライトリングやシャネルなど他ブランドへも供給を広げていく。
2. セラミックがもたらした全黒の機械
2021年、チューダーはブラックベイ・セラミックを発表した。マットブラックのセラミックモノブロックケースに、同色のダイヤルとベゼルを組み合わせた、徹底して単色の意匠である。
この外装の論理は、文字盤の裏側にも及んだ。サファイアケースバックから覗くMT5602-1Uは、ローターからブリッジに至るまで黒く染められている。通常のロジウム調仕上げではない。ケースから機械までを一貫した色で統べる——そのための専用仕上げが、末尾「-1U」という型番に与えられた。
機構そのものは基幹のMT5602と共通する。-1Uを特別たらしめるのは、外観の処理と、次章で述べる認定の二点である。
3. METASという新たな規範
MT5602-1Uが画期的であったのは、COSCの先にある認定を取得した点にある。スイス連邦計量・認定局 (METAS) によるマスター・クロノメーター認定がそれである。
この基準は2015年にオメガが業界へ導入したもので、ケーシング後の完成品状態で精度を測る。日差0/+5秒、6姿勢・2温度・2段階のパワーリザーブでの検査に加え、15,000ガウスの磁場への耐性を求める。チューダーはオメガ以外のブランドとして初めてこの認定を取得し、自社の耐磁設計に客観的な裏づけを得た。
両ブランドのアプローチは、それぞれの技術資産を反映して異なる。オメガがコーアクシャル脱進機と独自合金を軸とするのに対し、チューダーはシリコンヒゲゼンマイと構造設計でこの規範に応えた。MT5602-1Uは、その思想を最初に体現したキャリバーである。
技術解説
調速機構
MT5602-1Uの心臓部は、慣性可変式のテンプ(振動を司る往復運動体)である。テンプの輪に配した複数の調整錘を回し、慣性モーメントを微調整する。ロレックス系のマイクロステラ機構に連なる方式である。緩急針を持たないフリースプラング構造であり、外乱に強く、長期的な精度の安定に寄与する。
このテンプを支えるのが、両端を固定した横断ブリッジである。片持ちの受けと異なり、テンプ軸を2点で抱えることで、衝撃への耐性を高めている。ダイバーズウォッチを主たる搭載先とする本キャリバーにとって、この堅牢性は要件であった。
ヒゲゼンマイと振動数
調速の精度を最終的に決めるのが、テンプと対をなすヒゲゼンマイ(渦巻状の調速バネ)である。MT5602-1Uはこれにシリコン製を採用する。シリコンは磁界の影響を受けず、温度変化による特性のずれも小さい。鋼製ヒゲが抱えてきた帯磁の問題を、素材レベルで回避する設計である。
振動数は毎時28,800振動 (4Hz)。1秒あたり8回という刻みは、現代の実用機として標準的でありながら、外乱からの復帰の速さと省電力を両立する。りゅうずを引くと秒針が止まるハッキング機構も備え、秒単位の時刻合わせに対応する。
巻き上げとパワーリザーブ
自動巻機構は、両方向に巻き上げるローターを備える。-1Uではこのローターをブラックタングステン製のモノブロックとし、肉抜きを施した上でサテン仕上げと砂目仕上げを併用する。タングステンの高い比重が、効率的な巻き上げを支える。
ゼンマイを収める香箱の設計により、パワーリザーブは70時間に達する。金曜の夜に外した時計が月曜の朝も動いている——「ウィークエンド・プルーフ」と称される実用上の余裕である。
仕上げと認定
-1Uの仕上げは、チューダー標準の構成を黒一色へ置き換えたものである。ブリッジと地板はサンドブラストと研磨面を交互に配し、レーザー装飾を加える。装飾性よりも、外装との色の統一を優先した処理といえる。
精度認定は二重である。まずスイス公認クロノメーター検定協会 (COSC) の検定を受け、さらにMETASのマスター・クロノメーター認定へ進む。後者はケーシング後の完成品で日差0/+5秒を保証し、15,000ガウスの耐磁性を担保する。組み立てと検定は、ル・ロックルのチューダー製造拠点で一貫して行われる。石数は25石、直径31.8mm、厚さ6.5mmという諸元に、これらの性能が凝縮されている。