215
1974年登場、Gyromaxテンプと毎時28,800振動を擁する、カラトラバの基幹手巻キャリバー
Cal. 215は、1974年にパテック フィリップが発表した自社製の手巻キャリバーである。先代Cal. 12-120の系譜を継ぐ21.9mm(9 3/4ライン)の小径ムーブメントで、毎時28,800振動 (4Hz)、最低44時間のパワーリザーブ、18石を備える。調速には調整桿を持たないフリースプラング式のGyromaxテンプを採用し、現行仕様ではSpiromaxシリコンヒゲゼンマイを組み合わせる。長年カラトラバの時刻表示モデル(5119、5196など)の動力を担い、現在はムーンフェイズの7121、トラベルタイムの7134など複雑機構の派生にもその設計が受け継がれている。
| Maker | Patek Philippe |
|---|---|
| Reference | 215 |
| Type | Handwound |
| Display | Analog |
| Frequency | 28,800 bph (4 Hz) |
| Jewels | 18 石 |
| Power reserve | 44 h |
| Movement ⌀ | 21.9 mm |
| Hands | Hours, Minutes |
系譜と歴史
Cal. 12-120の後継として
Cal. 215は、1974年に登場した手巻キャリバーである。1950年代に設計された名機Cal. 12-120の後継として開発され、発表時点で先代はすでに20年を経ていた。後継機でありながら、ブリッジ配置などの基本設計は先代の構成を踏襲している。これは、カラトラバが体現する古典的な意匠を損なわないための選択であった。一方で、毎時28,800振動 (4Hz) の高振動設計を採り入れた点は新しい。高振動化は当時の業界全体の潮流であり、215はパテックの手巻ムーブメントを次の世代へ橋渡しする役割を担った。
Gyromaxという調速思想
215の核心は、調速機構にある。テンプには、パテックが1949年と1951年に特許を得たGyromaxを搭載する。Gyromaxは、ヒゲゼンマイの有効長を固定したまま、テンプ外周の小さな分銅を回して慣性モーメントを変え、歩度を調整するフリースプラング式のテンプである。調整桿(レギュレーター)を持たないため、衝撃で調整位置がずれにくく、等時性にも優れるとされる。この思想を、薄型かつ高振動の手巻キャリバーで実用化した点に215の意義がある。
シリコン技術との接続
215は半世紀にわたり生産が続く長寿命キャリバーであり、その間に素材技術の世代交代を取り込んできた。初期の個体は伝統的な金属製ヒゲゼンマイを用いたが、現行仕様では、Silinvarと呼ばれるシリコン系素材によるSpiromaxヒゲゼンマイを採用する。Spiromaxは2006年にパテックのAdvanced Research部門が公表した技術で、耐磁性と温度安定性に優れ、独自の終端カーブにより等時性を高める。基本設計を保ちつつ調速素材を刷新した点に、215の継承の仕方が表れている。
派生と現在地
215には複数の派生がある。スモールセコンドを備える215 PS、ムーンフェイズを加えた215 PS LU、ローカルとホームの2時間帯を表示する215 PS FUS 24Hである。なかでも215 PS LUのムーンフェイズは、122年に1日の補正で足りる精度を持つとされ、7121などに搭載される。近年は、より大径のケースに向けたCal. 30-255 PSが2018年にRef. 6119で登場し、215と役割を分け合う。それでも215は、複雑機構や小径系の派生を通じ、現在もカラトラバの系譜を支えている。
技術解説
基本諸元と手巻機構
Cal. 215は、直径21.9mm、厚さ2.55mmの小径手巻キャリバーである。伝統的な寸法表記では9 3/4ライン(1ライン=約2.256mm)に相当する。石数は18石、毎時28,800振動 (4Hz) で、最低44時間のパワーリザーブを確保する。動力は、リューズを巻くことで主ゼンマイを収めた香箱(バレル)に蓄えられる。自動巻のローターを持たないため構造は平坦で、薄型のケースに収めやすい。
脱進機とGyromaxテンプ
脱進機(ゼンマイの力を一定間隔で解き放つ機構)には、スイス式アンクル脱進機を用いる。そのリズムを刻むのが、フリースプラング式のGyromaxテンプである。一般的なテンプが調整桿でヒゲゼンマイの有効長を変えて歩度を調整するのに対し、Gyromaxはテンプ外周に設けた回転式の分銅で慣性モーメントを変化させる。調整桿を介さないため、衝撃で歩度が狂いにくく、姿勢差も抑えやすいとされる。毎時28,800振動 (4Hz) は1秒間に8振動を意味し、外乱に対して姿勢差が出にくく、安定した精度を得やすい。
ヒゲゼンマイの変遷
テンプの往復を司るのがヒゲゼンマイ(細い渦巻状のバネ)である。初期の215は、金属製の平ヒゲを用いた。現行仕様では、シリコン系素材Silinvarによる平ヒゲ、Spiromaxへと置き換えられている。Spiromaxは磁気の影響を受けにくく、温度変化にも安定し、独自の終端形状によって渦の同心的な伸縮を助け、等時性を高めるとされる。
仕上げと認定
仕上げは、地板やブリッジへのコートドジュネーブ(筋目模様)、稜線の面取り(アングラージュ)、ペルラージュなど手作業の装飾を伴う。完成した時計には、パテック フィリップ独自の認定であるパテック フィリップ・シールが付される。これは2009年に、それまで用いてきたジュネーブ・シールに代えて導入された基準で、直径20mm以上のムーブメントでは日差-3〜+2秒の精度などを求める。
複雑機構の展開
基本設計を共有しつつ、215は複数の表示を取り込んできた。6時位置のスモールセコンド、122年に1日の補正で足りる高精度ムーンフェイズ、ホーム時間を24時間表示で併記する2時間帯機構などである。ムーンフェイズは7121、2時間帯機構はトラベルタイムの7134や5326に搭載される。小径ゆえに複雑機構を載せても全体を薄く保てる点が、この系譜の特質である。