系譜と歴史
1. 純粋なクロノメーターという構想
FPジュルヌは複雑機構の名手として知られる。しかしCal.1304が積まれる時計は、複雑機構を削ぎ落とした素のクロノメーターである。フランソワ=ポール・ジュルヌは、19世紀初頭の航海用クロノメーターに範を求めた。船上で正確な時を刻むために磨かれた精度の思想を、腕時計へ落とし込む試みである。北米法人の責任者ピエール・アリミによれば、ジュルヌは1999年の独立時、この時計を最初の作品にしたいと望んだと伝わる。ただ、まず複雑時計で評価を確立すべきと判断し、構想を温めたという。
2. 金無垢ムーブメントへの転換
2005年の発表に先立つ2004年、FPジュルヌは全機械式キャリバーの地板とブリッジを18Kローズゴールドへ統一した。反応性の低い貴金属を用いることで、メッキに頼らない構造を選んだ。この決断は、自社製ムーブメントを金無垢で作るという、独立系ならではの姿勢の表明でもあった。Cal.1304はその思想を体現する基幹キャリバーとして登場する。初搭載機クロノメートル・スーヴェランは2005年、ジュネーブ時計グランプリ(GPHG)で最優秀メンズウォッチ賞を受けた。
3. ひとつのキャリバー、複数の表情
Cal.1304の活躍はクロノメートル・スーヴェランにとどまらない。2009年、FPジュルヌは自社初のタンタルケースを採用したクロノメートル・ブルーを発表し、同じCal.1304を搭載した。39mmという独自径のケースに、多層ラッカーの青文字盤を合わせた一本である。複雑機構を持たない時分計でありながら、ブルーは同社で最も入手難の一本に数えられるまでになった。素材と意匠を替えながら、ひとつの調速機構が複数の代表作を支える構図がここにある。
4. 独立系の時計学を担う核
同時代、汎用ムーブメントを基礎とするブランドが多いなか、自社で考案し製作する金無垢キャリバーは、独立系の存在意義を示す要素となった。Cal.1304は派手な機構を持たないがゆえに、調速と動力供給の素性が剥き出しになる。その素性の確かさが、20年を超えて基幹キャリバーであり続ける理由である。