1304 CS
2005年登場、並列2香箱で等トルクを追う、FPジュルヌの時分計クロノメーター基幹キャリバー
Cal.1304 CSは、FPジュルヌが2005年に発表した手巻きの時分計クロノメーターキャリバーである。地板とブリッジを18Kローズゴールドで構成し、並列に配した2つの香箱が脱進機へ直線的なトルクを供給する。振動数は21,600vph (3Hz)、22石、パワーリザーブは公称56時間。4つの慣性ウェイトを備えるフリースプラング・テンプで、6姿勢に調整される。初搭載はクロノメートル・スーヴェランで、2009年にはタンタルケースのクロノメートル・ブルーにも採用された。
| Maker | FP Journe |
|---|---|
| Reference | 1304 CS |
| Type | Handwound |
| Display | Analog |
| Frequency | 21,600 bph (3 Hz) |
| Jewels | 22 石 |
| Power reserve | 56 h |
| Movement ⌀ | 30.4 mm |
| Hands | Hours, Minutes, Small Seconds |
| Additional | Power Reserve Indicator |
系譜と歴史
1. 純粋なクロノメーターという構想
FPジュルヌは複雑機構の名手として知られる。しかしCal.1304が積まれる時計は、複雑機構を削ぎ落とした素のクロノメーターである。フランソワ・ポール・ジュルヌは、19世紀初頭の航海用クロノメーターに範を求めた。船上で正確な時を刻むために磨かれた精度の思想を、腕時計へ落とし込む試みである。北米法人の責任者ピエール・アリミによれば、ジュルヌは1999年の独立時、この時計を最初の作品にしたいと望んだと伝わる。ただ、まず複雑時計で評価を確立すべきと判断し、構想を温めたという。
2. 金無垢ムーブメントへの転換
2005年の発表に先立つ2004年、FPジュルヌは全機械式キャリバーの地板とブリッジを18Kローズゴールドへ統一した。反応性の低い貴金属を用いることで、メッキに頼らない構造を選んだ。この決断は、自社製ムーブメントを金無垢で作るという、独立系ならではの姿勢の表明でもあった。Cal.1304はその思想を体現する基幹キャリバーとして登場する。初搭載機クロノメートル・スーヴェランは2005年、ジュネーブ時計グランプリ(GPHG)で最優秀メンズウォッチ賞を受けた。
3. ひとつのキャリバー、複数の表情
Cal.1304の活躍はクロノメートル・スーヴェランにとどまらない。2009年、FPジュルヌは自社初のタンタルケースを採用したクロノメートル・ブルーを発表し、同じCal.1304を搭載した。39mmという独自径のケースに、多層ラッカーの青文字盤を合わせた一本である。複雑機構を持たない時分計でありながら、ブルーは同社で最も入手難の一本に数えられるまでになった。素材と意匠を替えながら、ひとつの調速機構が複数の代表作を支える構図がここにある。
4. 独立系の時計学を担う核
同時代、汎用ムーブメントを基礎とするブランドが多いなか、自社で考案し製作する金無垢キャリバーは、独立系の存在意義を示す要素となった。Cal.1304は派手な機構を持たないがゆえに、調速と動力供給の素性が剥き出しになる。その素性の確かさが、20年を超えて基幹キャリバーであり続ける理由である。
技術解説
1. 等トルクを生む2つの香箱
Cal.1304 CSは手巻きの時分計クロノメーターキャリバーである。構造上の核心は、並列に配された2つの香箱(ぜんまいを収める部品)にある。直列ではなく並列に置かれた香箱は、輪列へ均質で直線的なトルクを供給する。脱進機に届く力が一定に保たれるほど、振動の等時性は安定する。FPジュルヌがこの構成を採るのは、長い駆動時間のためというより、放出トルクの平坦化を優先するためである。公称56時間のパワーリザーブは、その設計から導かれる結果といえる。
2. テンプと脱進機
調速機構は、4つの慣性ウェイト(おもり)を備えるフリースプラング・テンプを核とする。緩急針を持たず、ウェイトの位置で慣性モーメントを変えて精度を調える方式で、衝撃による精度変動を抑えやすい。ヒゲゼンマイ(テンプを往復させる渦巻きばね)には、平ヒゲのアナクロン(ニヴァロックス系の合金)が用いられる。その内端は、ニヴァトロニック製のコレット(ヒゲ玉)へレーザー留めされる。脱進機は15歯のガンギ車を持つアンクル(レバー)式で、振動数は21,600vph (3Hz)。慣性は10.10mg/cm2、振り角は52度とされる。
ここで留意したいのは、「クロノメーター」の名が脱進機の形式を指すものではない点である。デタント式ではなく一般的なアンクル式を採りつつ、6姿勢での調整で時計学的な精度を追い込む。名称はあくまで精度の規範を示す。
3. 金無垢の地板と仕上げ
地板とブリッジは18Kローズゴールドで作られる。メッキを施さずに済む素材選択で、経年での被膜摩耗を避ける狙いがある。石数は22石。仕上げは、地板に麦粒模様(グレインドルジュ)のギヨシェ、ブリッジにコートドジュネーブを施し、面取りと研磨された螺子頭が加わる。輪列の多くが文字盤側に隠される設計のため、裏蓋側にはテンプと2つの香箱が大きく見え、懐中時計を思わせる開放的な眺めとなる。地板には創業以来の銘「Invenit et Fecit」(発明し、製作した)が刻まれる。
4. 精度の担保と表示
FPジュルヌは公的なCOSC認定を取得せず、自社の規範に基づいて各個体を調整する。6姿勢調整と等トルク設計の組み合わせが、日差の安定を支える。なお3時位置のパワーリザーブ表示は、残量ではなく前回巻き上げからの経過を示す独特の読み方を採る。複雑機構を持たないがゆえに、動力と調速の基本性能がそのまま精度に表れるキャリバーである。