AP 2140
1995年登場、ジャガー・ルクルトのエボーシュを基にオーデマ・ピゲが磨き上げた小径自動巻
Cal.2140は、1995年にオーデマ・ピゲが投入した小径の自動巻きキャリバーである。ジャガー・ルクルトのCal.960をベースとし、自社で仕上げと調整を施した一本にあたる。振動数28,800vph (4Hz)、約42時間のパワーリザーブ、31石を備え、直径は20mm (9リーニュ) と小さい。21金製のローターで時・分・日付と中央秒を駆動する。ロイヤルオークの33mmモデルRef.15000系を皮切りに、ロイヤルオーク オフショアの女性向けやミレネリー、エドワード・ピゲにも搭載された。小型の機械式が求められた時代を支えた基幹ムーブメントである。
| Maker | Audemars Piguet |
|---|---|
| Reference | AP 2140 |
| Type | Automatic |
| Display | Analog |
| Frequency | 28,800 bph (4 Hz) |
| Jewels | 31 石 |
| Power reserve | 40 h |
| Movement ⌀ | 20.4 mm |
| Hands | Hours, Minutes |
| Date | Date |
系譜と歴史
1. 小径自動巻きという課題
オーデマ・ピゲにとって、小径の自動巻きは長く向き合ってきた領域である。1986年に導入されたCal.2130系(2131、2150、2151)は、フレデリック・ピゲ製のエボーシュ(半製品状態のムーブメント)を基にした小型自動巻きであった。直径は2140と近いものの、振動数は低く、パワーリザーブも控えめだったとされる。より高い精度と実用性を備えた後継が求められていた。
2. ジャガー・ルクルトとの協業
そこで選ばれたのが、ジャガー・ルクルトのCal.960というエボーシュであった。ジャガー・ルクルトは他ブランドへムーブメントを供給する設計・製造の蓄積を持ち、「時計師の時計師」と称される存在である。960は、同社の名機Cal.889系に連なる構造を備えるとされ、堅実な土台であった。オーデマ・ピゲはこのエボーシュに自社の仕上げと調整を施し、21金製のローターを与えてCal.2140として完成させた。素材をジャガー・ルクルトに仰ぎ、仕立てを自社で担うこの手法は、Cal.2120(JLCのCal.920を基とする)以来の同社の系譜に連なる。
3. 搭載の広がりと派生
Cal.2140は1996年から2011年まで、約15年にわたりカタログに留まった。1995年のロイヤルオーク Ref.15000系(33mm)を皮切りに、33mmのロイヤルオークだけで10を超えるリファレンスに搭載されている。30mmのロイヤルオーク オフショア女性向け3種(77151、79290、77199)にも採用された。1999年からはミレネリー、2000年代初頭からはエドワード・ピゲへと広がる。2001年には永久カレンダー用の文字盤に対応する派生Cal.2141/2806が起こされ、エドワード・ピゲ パーペチュアルカレンダー Ref.25799を支えた。
4. 退場とその後
2140は2012年までに姿を消す。総生産数は1995年から2012年で12,434本と伝わる。興味深いのは、その後しばらく自動巻きの後継が現れなかった点である。次に小径の自動巻きが用意されたのは2020年のCal.5800(直径23.9mm)であった。空白の背景には、時計の平均径が大きく伸び、小型の機械式が一時的にコレクションから退いた事情があったと考えられている。
技術解説
Cal.2140の土台は、ジャガー・ルクルトのCal.960というエボーシュである。960は同社のCal.889系に連なる小径ムーブメントとされ、889系は中央ローター式の自動巻きとして、オーデマ・ピゲやヴァシュロン・コンスタンタン、IWCなど多くの高級時計に供給された実績を持つ。2140はその系譜の上に、オーデマ・ピゲ独自の仕上げと部品を重ねた構成といえる。
直径は20mm(9リーニュ)、厚さは4mmである。9リーニュは旧来の寸法単位で、約20mmにあたる。WatchBaseは直径を20.40mmと記録しており、公式値とわずかに差がある。小径ながら厚みを抑えており、薄いケースにも収まる設計である。
振動数は28,800vph(4Hz)である。テンプ(調速を担う振動体)が1秒間に8回振れる計算で、当時の小径自動巻きとしては高めの周波数にあたる。小径の機械ではテンプの慣性モーメントを大きく取りにくく精度の確保が難しいが、高い振動数は外乱に対する姿勢差を抑え、安定した歩度を得やすくする。調速にはグリュシデュール製のテンプが用いられるとされ、これはベースのJLC系に倣う仕様である。耐震装置にはKif系が用いられると伝わる。
巻き上げは中央ローター式で、オーデマ・ピゲは21金製のローター(回転錘)を与えている。比重の大きい金のローターは、わずかな手の動きでも効率よく巻き上げる利点があり、同社の上級キャリバーに通じる仕立てでもある。ローターはボールベアリングで支持される構造とされ、これもJLC系に由来する。地板やブリッジには自社の仕上げが施され、ムーブメント全体の質感を高めている。
表示は時・分に加えて中央秒と日付を備える。秒針は間接中央秒(輪列から間接的に駆動される中央の秒針)で、889系に通じる構造である。日付は、時・分・秒を基本とする土台に加えられた機能にあたる。
石数は31石、パワーリザーブは公式で約42時間である(WatchBaseは40時間と記録)。香箱の容量と、4Hzという比較的高い消費のバランスの上に成り立つ数値といえる。
なお、この2140を土台に、後年Cal.2240が起こされた。2240ではテンプに可変慣性錘(慣性モーメントを調整する錘)を備えた構成へ改められるなど、調速と巻き上げの細部が見直されている。2140は、ジャガー・ルクルトの確かな土台にオーデマ・ピゲの仕立てを重ねた、堅実な小径自動巻きとして位置づけられる。