系譜と歴史
1. 自社製でも汎用でもない「高級エボーシュ」
Cal.2120の出自は、自社製か汎用かという一般的な二分法に収まらない。母体はJaeger-LeCoultreが1967年に設計したCal.920であり、その開発にはAudemars Piguet、Patek Philippe、Vacheron Constantinの三社が資金と技術で関与した。完成した設計は、JLCからエボーシュ(半完成ムーブメント)として三大ブランドにのみ供給された。各社はこれを独自に組み上げ、仕上げを施して自社キャリバーとした。APでの呼称が2120(無日付)および2121(日付付)である。ETA系のように広く流通する汎用品ではなく、限られた高級メゾンが共有した点に特異性がある。なお、設計と製造を担ったJLC自身は、Cal.920を自社の時計に一度も用いなかったと伝わる。
2. ロイヤルオークを生んだ薄型設計
1972年、Gérald Gentaの手によるロイヤルオークRef.5402が登場する。ステンレス製の高級スポーツウォッチという当時前例のない構想は、薄いケースに収まる自動巻を必要とした。その解がCal.2121であった。厚さ3.05mmのムーブメントは、約7mmという薄いケースを可能にした。発表当初、鋼製で高価格のロイヤルオークは市場に容易に受け入れられなかったが、後にAPを代表する基幹モデルへと育つ。クォーツ・ショックの逆風下にあったAPにとって、このムーブメントは経営を支える資産となった。同時代には超薄型化を競う動きが広がり、より薄いマイクロローター式や周辺ローター式も現れた。Cal.2120は、巻上効率と堅牢性を重んじ、あえて中央のフルローターを選んだ設計思想に立つ。
3. 派生から継承へ
Cal.2120は数多くの派生を生んだ。1978年にはMichel Rochat、Jean-Daniel Golay、Wilfred Berneyらが薄型の永久カレンダー・モジュールを開発し、Cal.2120/2800が生まれる。これは初期型でRef.5548に搭載され、1984年にはロイヤルオーク・パーペチュアルカレンダーへと展開した。2015年のCal.5134では週表示が加えられるなど、複雑機構の土台としても長く用いられた。基本のCal.2120/2121も、ジュールオーデマやロイヤルオーク・エクストラシン(Ref.15202)へ受け継がれた。Cal.2121は2021年末に退役し、翌2022年、ロイヤルオーク50周年に合わせてAPの自社製Cal.7121が座を継いだ。半世紀にわたりAPの薄型自動巻を支えた、稀有な共有設計であった。